代用品

「name、なにが飲みたい?」
「特製アバ茶」
「わかった」
「止めてください、嘘です」

夜。時計の針が日付の変更を知らせてから、しばらくがたった。
アバッキオはキッチンから、自分のソファを陣取り、ねっころがるnameの顔を見てため息をつく。
毎度のことだが、何をしに来たんだこの女は…。

nameを見ていると、何事もめんどくさくなる。
アバッキオは紅茶もコーヒーも作る気になれず、一人で飲もうと思っていたワインをnameに差し出した。

「ほらよ」
「おー…ワイン…。さんきゅ、アバッキオ」
「ったく…気がすんだら帰れよ?」

nameは気のない返事をしつつ起き上がり、ワインの詮をあけた。
アバッキオはグラスを二つローテーブルに置き、nameの隣に座る。

たぶん、アバッキオはnameとチームの中で一番仲がよい。
深い仲になったことはないが、よくこうして二人で夜を共にする。
また、互いに下らない冗談を言ったり、馬鹿にしたり口汚く罵りあったりもするが、アバッキオはそれが全く嫌じゃなかった。
nameの絡み方が鬱陶しいときもあったが、なんだかその鬱陶しさも心地よく感じる始末だ。

「二人の将来に乾杯」
「やっぱお前真性の馬鹿だろ」
「なにをぅ、失敬な」

nameが無表情でうすら寒い冗談を飛ばし、アバッキオは苦笑いを浮かべる。
そんなアバッキオを知らず、nameはワインを煽る。
nameが三杯目のワインを飲み干した所で、アバッキオは違和感を感じた。

いつもなら、冗談を言い合ったり真剣に議論したりするのだが…今日のnameは全く喋らない。
ころころ変わる顔の表情にも全く変化が見られない。

………なにかおかしい…。

「………おい」
「なにかね、頭に卵の殻男」
「…………。……お前、今日変だぞ…」
「………………」

nameの発言に対する追求を飲み込み、アバッキオは思ったことを率直に言う。
nameはぼんやりとした様子で、アバッキオを見つめていた。

「なにか、あったのか?」

アバッキオは心配そうに訪ねた。
nameは空いたグラスをテーブルに置いて、ソファにねっころがった。

アバッキオの足を枕にし、天井を見つめる。

「振られちゃったでやんす」
「………は? ブチャラティにか」
「イエス、あいあむ」

nameは舌打ちのような音を出し、親指を上下に振る。
アバッキオはそんな強がるような態度をするnameに心を痛めたが、反面、安心した気持ちになった。
友人が失恋したというのに、安心感を抱く自分に罪悪感が芽生える。
nameからブチャラティに関する相談は受けていた。そのたびにもやもやとした感情が沸き上がり、真剣に助言をする自分にたいし、なんとも情けない気持ちや矛盾を抱いていた。

「………そうか」
「てゆーわけで、癒してくれ、アバッキオ君」

nameがアバッキオに抱きつき、腰に顔を埋める。
見たことのない、弱々しいname。

守ってやりたい、と思うと同時に、かすかな独占欲のようなものが芽生える。

―――ブチャラティにとられなくて、よかった。

無意識のうちに、アバッキオの心はそう叫んでいた。

nameを抱き上げ、向き合う形で膝にのせ、抱き締める。
細いしなやかな体躯に、独占欲が増幅して、無茶苦茶にしてやりたいという欲も出てきた。

「name……俺がブチャラティの代わりになってやる。お前のそばにいてやる」
「アバッキオがー…?」

nameが顔をあげ、アバッキオを見つめる。
しばらくそうしていたが、やがてnameが力なく笑った。

「今夜だけは、よろしく」
「…………おう」

アバッキオはnameに口づけをし、強く抱き締めた。
nameの手がおずおずとアバッキオの背中に回される。


代わりだとしても。




「俺がそばにいてやるから」




nameはありがとうと呟き、アバッキオの肩に顔を埋めた。

アバッキオは、自分の肩に一粒の水滴が落ちたのに気付いた。








(失恋につけこむなんて卑怯かもしれないが、それでも俺はこいつをそばにおいておきたい)
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