報われない想い、手放せない幸せ

ブチャラティが町の見回りを終えてアジトに帰ると、nameがソファで一人、ぐーすか寝ていた。
寝顔だと普段より幼くみえ、つい微笑んでしまう。
ソファの肘掛けに腰を掛け、nameの柔らかな髪に指を通し、質感を楽しんだ。

「name、起きてるだろ」
「…………………」

nameの頬がピクリと反応した。
どうやら狸寝入りしているらしい。
バレているのに、寝ているフリをするnameが面白い。
ブチャラティはくすりと笑い、nameの頬に指を滑らせた。

「寝てる、……んだな?」

頬を撫でた指が、首筋へ降りていく。
首筋から鎖骨へ。鎖骨から胸元へ。
その度にnameが“寝ているのに”反応を示すから、楽しくてしょうがない。

ブチャラティの指が、パーカーのジッパーをつまんだ。

「ちょ、ちょちょ! …っブチャラティ!!」

nameが胸元を押さえながら、飛び起きた。
顔を赤くしてブチャラティを睨み付けている。

「おはよう、name」
「………う〜……変態!」

爽やかに挨拶をするブチャラティに、nameは先程まで枕にしていたクッションを投げつけた。
ブチャラティはクッションを避け、nameの横に座る。

「なんで寝たフリなんかしてたんだ?」
「………ほんとに寝てましたが」
「舐めるぞ」
「寝たフリしてました、すいません」

ブチャラティの一言で、nameは素直に寝たフリをしていたことを認める。
横顔は不服そうに膨れ、すねているような表情をするname。

ブチャラティにとって、nameは妹のような存在だ。異性としては見れないが、とても大切な存在である。
nameはその事を知っていて、なおかつ光栄なことだと思っている。
しかし、nameにとってブチャラティは兄なんかではなく、恋愛の対象として慕っていた。
現状と自分の感情の生むギャップにやきもきしてしまう。

「で、なんで寝たフリなんか?」
「…ブチャラティをビックリさせようかなぁー、と…」

実際は、寝ている無防備な自分を見せることで、何かしらの進展があるのでは、と期待していたのだが。

「………name、嘘ついてるな?」
「えっ………」

ブチャラティがnameの頬の辺りを指差し、汗、と呟いた。
確かにうっすらと発汗をしている。
たったこれだけの量で、嘘を見破ってしまうから凄いと思う。
nameは尊敬の念を抱いたが、反面厄介だなぁ、と思った。

「………どうした?」

ブチャラティがnameの顔を覗き込む。
たぶん、嘘をついたことに関する問いだろう。
nameは今までブチャラティに対して嘘をついたことがなかったから、何かあったのでは、と心配していてくれてるのかもしれない。

「何か悩んでるようなら、相談しろよ?」
「うん………。…あのさ、ブチャラティ」
「ん?」
「もし、本当に私が寝てたら…どうした?」

我ながら、おかしな質問だとnameは思った。ブチャラティが何かするはずもないのに。

ブチャラティは少しキョトンとしてから、nameの頭を撫でた。

「毛布ぐらいはかけてやるさ」
「…………うん…」

うまく、かわされた気がする。
ブチャラティなら、nameの表情をみれば質問の意図ぐらい分かっただろう。
だが、ブチャラティは意図に気づかないフリをして、質問に答えた。

やっぱり私はブチャラティにとって、ただの“妹”なのだ。

それ以上でもそれ以下でもなく、最も恋人から遠い存在の一つ。
可愛がられたり、優しくされたりはするが、まるで進展の見込めない存在。

ブチャラティに恋をする年頃のnameにとっては、ある意味残酷な立場だ。

「………キスとかされたら、どうしようって思ったよ!」

nameはおどけた表情で、冗談を言う。
乾いた笑い声が、部屋に響く。
ブチャラティはどことなく寂しげに笑い、立ち上がった。

「さて。少し遅めの飯にでも行くか。…奢るぜ、name」
「マジか。奢られるぜ」

いつも通りのnameに戻り、ブチャラティは安心した。

nameの自分に対する思いには、気付いていた。
本来なら、中途半端には優しくせずに、距離をあけて接している方がいいのだろう。
……しかし。

nameの無邪気な笑顔を見ていると、突き放すことなんてできない。

そばに置いておきたいと、思ってしまうのだ。

「…………………」
「ブチャラティ〜? 早く食べにいこーよー」

自分に向けられる、純粋な笑顔。
ブチャラティは自然と笑顔になってしまう。

そばに置いておきたい、なんてとても身勝手な思いだ。

ブチャラティは自嘲的な笑みを浮かべ、nameの頭を撫でる。



まだ、自分達の関係はこれでいい。



「name、いくぞ」
「あいあいさー!」




俺は、この幸せを簡単に手放すことなど、出来やしないのだ。








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