一万打企画 | ナノ




「この、ヘタレ!」

胸にグサッと何かが刺さるような痛みを感じた。

「へへへっヘタレちゃうわ!」
「そうやってきょどってるところがまたヘタレっぽいんやて」

呆れたように言われてまた胸が痛くなった。

「なまえちゃん、あんま謙也のこと苛めたりなや」
「…白石」

彼女の顔が少し赤らんだのを見てまたチクリ。

「ほんまに仲ええな、ふたり。付き合っとるん?」
「ちちち、ちゃうし!なんであたしがこんなヘタレと付き合わなあかんねん!」

そうやって否定するなまえは冗談なんかじゃなくて本当に勘違いをされたくなくて否定している。

それは俺のことが嫌いちゅーわけやなくて、目の前におる好きな人にきっと誤解されたないからや。

「今日オサムちゃんの用事で部活なしやて」
「おん。わかった」
「ほな、またな。なまえちゃん」
「うん!ば、ばいばい!」

ニッコリと営業スマイルみたいな笑顔を見せて帰ってく白石をずーっとなまえは目を輝かせながら見つめとった。

「顔、真っ赤」
「うっうるさいわ」
「そないに好きか?白石。」

そんな俺の問いかけにも顔を赤らめるなまえ。はぁ、かわいすぎるわ。

「ヘタレ。」
「あんたに言われたないわっ」
「お前なんて白石に相手にもされへんて」
「ふん。いつかは白石の隣にあたしが居るもん」
「喋るので精一杯の癖に生意気言うなや。ヘタレ」
「大丈夫や。謙也がなんとかしてくれる」
「なんそれ」

頼られてる。そんなことは前から知っとる。けど、好きな人に俺じゃない違う男と結ばれるために頼られとるんはかなり複雑な思い。

「…なまえのアホ」
「なんか言うた?」
「なんも」

なまえが好きやのに告白できひん俺はやっぱヘタレなんやろうな。時おりそんな自分が嫌いにもなる。終いには白石が消えればええなんて思たこともある。俺、ほんまはサイテーな人間なのかもしれへん…。








「なぁ!謙也聞いて!」

ある日の放課後。やけにテンションハイななまえが俺に話しかけてきた。

「うっさいな。なんや?」
「じゃじゃーん!」

ぱっと俺の目の前にはドアップで文字が見えた。近すぎて何て書いてあるかわからへん。

「なん?」
「映画のチケット!白石にもらったんや〜」

…は?

「デートやで。デートっ!」

鼻唄混じりでめっちゃ嬉しそうななまえ。白石となまえがデート…。ありえへん…。

「い、行ったらあかん」
「え」

気づいたときには自分でも驚いた。なに言っとるんや、俺…。なまえの気持ちがやっと白石に届いたんや。好きな女の幸せ喜ぶんが男っちゅーもんやろ。祝福したらなあかん。笑顔でおめでとう言わな…

「あはは、よかったな・・・」

せやけど…

「…謙也?」

やっぱこればっかりは…

「なまえ。」

譲られへん。
「好きや。」

言った瞬間、なまえは目を見開いてまっすぐに俺を見ていた。

「いきなり…なに。えっ…けん…」
「行かさへん。絶対」

なまえの腕を掴んで自分の方になまえの体を寄せる。

「痛っ…謙也、離してよ…っ」
「そないに白石がええんか?俺じゃあかんのか?」
「やっ…」
「なまえ…っ」
「ん!?…っ、」

嫌がるなまえを無視して無理矢理キスをした。なまえが離れへんように空いている手でなまえの頭をがっちりと固定する。

「っ…ふ…んー!!」
「はぁ…ちゅ、っん」

必死に抵抗するなまえ。構わず舌を入れる俺。あかん…止まらへん。

「んっ…ぁ…ふ、っ」
「っ…は…、んっ」
「…〜!!…っはぁはぁ」

唇を離すとなまえは息苦しそうに呼吸をした。目が少し赤くなっていて俺の中のなにかをそそる。掴んでいた腕をなまえの腰に回してぎゅっと抱き締めた。

「なぁ、…なまえ。俺はお前しかおらん」
「謙也…」
「白石なんてやめて俺にしぃ」

気持ちが伝わるようさっきよりも力強く抱きしめる。そしたらなまえの両腕が俺を自分から離すように胸板に置かれた。

「ごめん…謙也」
「・・・」
「あたしが今好きなんは白石や。…謙也の気持ちもうれしいけど、今は白石しか考えられへん…」

現実を突きつけられた。ヘタレの皮破ったらなんか起きるんやないか。そう思てたけど、ちゃうかった。

「ごめん…」

そう一言だけ言ってなまえは荷物を持って教室から出ていってしまった。

「はっ…あはは…」

一人取り残された俺はその場に座り込んだ。アホらしくて涙も出た。自分の気持ちを伝えれば何かが変わるんじゃないのかって。結局自爆しただけや。おかしゅうて涙が止まらん。

〜♪
ちょうどその時携帯が鳴った。

「…なまえ?」

メールの受信ボックスに新着メール一件。送信者はなまえ。

(ごめんね、謙也。あたしは今は白石のことがめっちゃ好きやねん…。ほんまごめん。せやけど…ほんまはあたし、前は謙也が好きやってん。なんでこんなうまくいかへんのかな…。勝手なわがままやけど…あたしはこれからも謙也と仲良うしたい。やから今まで通り接してくれると嬉しいです。自分勝手でごめんなさい。)

…あぁ、なんで俺はもっとはようにヘタレの皮を破らへんかったんやろう。もっと前に…、なまえが白石を好きになる前になまえに告白しとったら今頃きっと…。









臆病な俺


(もう後悔しか残らへん)





2010.6.30



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