「ブン太、ボニョ楽しみだね!」 「おいおい、あんまはしゃぐと転ぶぞ」 「転ばないもーんっ」 誕生日のあたしはすごく浮かれていた。今までの誕生日は友達と遊んだり、ブン太ままと買い物に行ったりしていたからブン太と二人人っきりで誕生日を過ごしたことがなかった。部活も忙しくて家で一緒にケーキを食べるくらい。でも、この日はたまたま休みで少し幸村くんに感謝。 「そいや、なまえとデートなんて久しぶりだよな」 「デっ、デート!?」 「おう。これデートだろぃ?」 そ、そうか。これは世間一般でいうデートなんだ。周りから見たらあたしとブン太はカップルに見えるのかな…? 「ま、今日はなまえが主役だし。なんでも言うこと聞いてやるよ」 「ブン太、やさしーい」 こういうブン太のたまに見せるお兄ちゃんな部分があたしは大好き。 「あ…ボニョ、満席だってよ」 「えー!?」 かなりショック。満席だなんて…。でも、映画館まで来たのだから映画は見たい。あたしは仕方なくボニョをあきらめて私の初恋をあなたに捧ぐを見ることにした。 「んな、落ち込むなって」 ブン太が頭にポンと手を置いてきた。 「う〜、あたしのボニョ…」 「また今度来ようぜ。一緒に」 な?って言いながらあたしの顔を覗き込んできた。そうだ。せっかくのブン太との誕生日なのに落ち込んでたら勿体無い。 「うん。約束ね」 「おう。んじゃ、もうすぐ始まっちまうし食いもん買って中に入ろうぜ」 あたしたちは大きいサイズのポップコーンひとつと飲み物を買って映画館に入った。ブン太はチュロスも買っていた。…太るぞ。映画館のライトが消えて真っ暗になった。あ、始まる。 「チュロス、うまっ」 小声でブン太がチュロスの感想を呟いてた。思わず笑ってしまった。ブン太はやっぱり花より団子主義だ。チュロスを食べ終わって次はポップコーンに手を出した。呆れて見ると、ひじ掛けはしっかり半分開けてあってやっぱりブン太は優しいと思った。 …映画も終盤になっての感動のシーン。思わず鼻をすすって泣いていると、隣でも鼻をすする音がした。ブン太が泣いてる。 「はい」 「あ、?さんきゅ…」 あたしはハンカチを差し出した。ブン太でも泣くことあるんだな。少しびっくり。 「あー!映画やばかったな」 「うん…」 「あれ?まだ泣いてんの?」 「泣いてないっ」 「嘘つけ。ほれ、ハンカチやるよ」 「それあたしの」 鼻水が止まらないからブン太からハンカチを受け取った。 「ぷっ、なまえ鼻垂れてる」 「えっ!?」 「嘘〜。」 「もう。ブン太!」 「へへっ、なまえはかわいいな」 「誤魔化さないでよ」 あたしをおちょくるブン太。かわいいなんて言われたら勘違いしてしまう。 「そいや、俺始まって三分程度で涙うるうるだったぜぃ」 「あたしも」 「あれはやべーよな」 「うん!あのシーンはかなり胸に来た」 だよなだよな。あとさ〜…とブン太と映画の感想を言い合いながらあたしたちは家に帰った。 「ただいま」 「あれ?靴がある。お客さんかな」 「あ。ほんとだ。母さんー?」 男物の新品みたいに綺麗な靴が玄関にあった。お客さんなんて珍しいな。 …でも、それはあたしたちにとって招いてはいけないものだった。 2010.2.23 (修正2011.5.16) |