「三回目…」 どこかで会った気はする。けれど、これで三回目と言われてもいまいちピンと来ない。 「なんだ。覚えてねぇのか?」 「…ごめんなさい」 まじかよ。…と言って少し驚いたような顔をした後、彼はどことなく悲しそうな表情を見せた。 「ガキの頃、正確に言えば幼稚園児の時だ」 幼稚園のとき。まだパパとママが生きてた頃…。 「俺はイギリスに住んでいた。だが、親父の仕事の都合で一週間だけ日本にいたときがあった。その時だ」 「外に出てみたら公園になまえ、お前がいた。丸井ブン太と」 「…ブン太」 「俺は少し遠くでお前たちを見ていた。そしたらお前が近くに来た。」 「こんにちは!」 「え、」 「あたしみょうじなまえ!あなたは?」 「跡部…景吾」 「景吾くんね。よろしく!」 幼い頃の記憶がぼんやりと頭に浮かび上がってきた。 「初めはなんだこいつはと思った。けど日本に友達がいなかった俺は毎日なんとなくその公園に行った」 「あ、景吾くん!一緒に遊ぼ!」 「…うん」 「なまえが俺を誘ってくれるようになって、俺も徐々に心を開いていった。まぁ、丸井はあまり乗り気ではなかったみたいだがな」 「そして一週間たった。俺はイギリスに帰らなければいけなくて最後の日になまえだけを呼び出して、俺たちは約束をした」 「なぁ、なまえ…」 「なに?」 「また会えたらその時は、俺と一緒にいてくれる?」 「うん!もちろんだよ」 「約束だよ?」 「景吾…くん」 はっきりとその光景がフラッシュバックした。 「…思い出したみたいだな」 「でも二回目はどこで…」 「去年の関東大会に見かけたんだよ。初めは目を疑ったが、すぐにお前だとわかった」 そうだ。彼を見かけたことがあったのは去年、関東大会の応援に行ったとき。そこは大歓声が上がっていて他と少しだけ会場の雰囲気が違った。そしてそこにいたのは今、目の前にいる跡部景吾。 そう言えばブン太があれが氷帝コールだ、とか言ってたっけ。 「まさかあの時の跡部って人が景吾くんだったなんて…」 「まぁ、驚くのも無理はねぇ。ゆっくり整理すればいい」 フッと鼻で笑うようにソファーにズシッと座り込んだ。 「俺の気持ちはあの頃から変わらねぇ。ずっとお前だけを思ってた」 「えっ…」 「もちろんなまえもだろ?」 …約束。それは子供なりの解釈で、"好きだから一緒にいる"、じゃなくて"友達として一緒にいたい"、そういう意味で…。深い意味なんてなかった。 だってあたしの好きな人は…。 「おい、」 「あ、えっと…」 「まぁいい。今日はいろいろと大変で疲れたはずだ。ゆっくり寝ろ」 そう言って景吾くんはドアに向かって歩き出した。 「これからよろしくな。なまえ」 バタン、扉の閉まった音がこだました。 「どうしよう…」 完全に景吾くんは勘違いをしている。あたしが幼稚園の頃から思っているのはたった一人。 …でも、もう離れてしまった。忘れなきゃいけない。景吾くんを好きにならなきゃいけない。 だったら、本当の気持ちなんて景吾くんに言わない方がいい。その方がきっとうまくいく。 大きく息を吐いて、あたしはしばらく天井を見つめていた。 久しぶりに更新! ブン太ハッピーバースデー!!← 2011.4.20 |