きみとあたし。 | ナノ
 10.出会いは最悪



いきなりの侵入者に思わず大声をあけた。

「痴漢ー!覗きー!へんたーいっ!」
「ちょっ…おい!やめ」

ここが跡部さんの家だということも忘れ、湯気でうまく見えない相手に適当に近くにあるものを投げつける。しかし、運動神経がいいのか全て避けられてしまった。

「見かけによらず強気な性格だな。みょうじなまえ」
「えっ」

扉が開いたことによって湯気がだんだんと外に出ていって覗きの顔が見えた。とても綺麗な顔をしていて思わず見とれてしまった。でも、この人どこかで見たことある…。

「覗く気はなかったんだ、悪かったな」
「ちょっと、ま」

そう言って男の人は風呂場から出ていった。

「いったい何だったの…?」

なんであの人あたしの名前知ってるの?というか覗いて、人の裸見て悪かったな。で済まないよね?え、常識的に済む問題じゃない気がするんだけど…

「…うわあぁあああ!!」

恥ずかしさとモヤモヤさからバシャッと一気に頭までお湯に浸かった。







「湯加減はどうだったかな?なまえさん」
「最悪でした…」
「え?」
「あ、いえ!最高でした!」

思わずさっきの出来事を思い出して口を滑らせた。

「そういえば先ほど息子が帰宅してね。少ししたらなまえさんの部屋にあいさつに行くと言っていたから、部屋でしばらく待っていてくれないか?」
「わかりました」
「じゃあ、私は自室で寝るとしよう。なまえさん、おやすみ」
「おやすみなさい」

跡部さんが広間を後にしたのを見てあたしも自分の部屋に戻ることにした。

「はぁー…疲れた」

体がとてもだるく感じる。お風呂に入ったのに疲れなんて取れやしない。

「今から会うとか…。もう寝かさしてって感じ」

はぁ、と一息ため息をついたときコンコンと扉を叩くノック音がした。

「入ってもいいか?」
「は、はい!」

ついに来たーっ!この瞬間。お風呂に入ったばかりということもあってか思わず体が火照る。

ガチャっと扉が開く音がしたと同時に、あたしの口はポカンと開いた。

「よぉ、みょうじなまえ。」

目の前に立っているのはさっきの変態覗き魔ではないか。

「挨拶が遅れちまって悪りぃな。俺がここ跡部財閥の御曹司、跡部景吾だ」

すごく偉そうな態度をとる覗き魔。体の火照りが少し増す。

「あ、あなたが跡部さんの息子!?」
「あーん?何か問題でもあるか?」

キラキラと輝く美しい容姿に一瞬目が眩む。ま、まぶしい…

「の、覗き魔と一緒に暮らすなんてあたし嫌ですっ…」
「まだ根に持ってんのかよ。さっきちゃんと謝っただろ」
「あんなの普通、謝った内に入りません!」
「チッ。」

な、なんて性格の悪い奴なの!?舌打ちとかありえないでしょ!

「もうい…「謝ればいいんだな?」
「えっ?」

そう言うと彼は深々と頭を下げて悪かったと謝った。

「これでいいか?」
「あ、はい…」

意外にも素直な行動に少し驚いた。根はしっかりしている人なのかな?

「つか、なんで敬語なんだよ」
「え、だって初対面だし…」
「これから一緒に生活するんだ。タメ口でいい」
「あ、うん…」

ちょっと強引だけれどその方があたしも気が楽だった。というか、初めて彼を見たときから気になっていたことがあった。

「あの、あなたのことどこかで見たことがあると思うんだけど…あたしたちどこかで会ったことある?」
「…覚えてないのも無理はないか」

彼がその時一瞬だけ悲しい顔を見せたのがわかった。

「今日で会うのは三回目だ。なまえ」

初めて名前だけを呼ばれてどこか懐かしさを感じた。










これも久しぶりの更新。
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2010.9.1

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