「あのね…、あたし…」 俺はなまえに全てのことを話すように頼んだ。 不安気に話すなまえは震えていて、少しでも落ち着かせようと俺は手を握った。 「心配すんな。ゆっくり聞いてやるから」 「うん…、」 顔を覗き込むと少し安心した顔を見せた。よかった。 「あたし、嫁に来てくれって言われたの…」 「え、」 「跡部グループっていう会社の偉い人で、息子さんがあたしのこと好きになったらしくて、あたしの教育費とか全部出してくれるって…」 「跡部グループ…」 跡部グループ…跡部景吾か?氷帝の部長の…。 「息子の顔、見た?」 「ううん。今日は部活で忙しくて、ここにはいなかったよ」 「そっか。」 俺の考えすぎか?でも、跡部グループなんて跡部しか思い付かねぇし、氷帝の部長なら部活はもちろん忙しいだろうし…。 「ブン太?」 「あ、あぁ。悪ぃ。んで、それ断ったんだろ?」 黙り込むなまえ。なんで断ったって言わねぇんだよ。なんで黙ってんだよ。 「おい、なまえ…」 「あたし…、この家を出ていく。」 なに…言ってんだよ。 俺は自分の耳を疑った。 「もし俺らに迷惑だからこの家を出ていくってんなら、俺は許さねぇから…」 「ブン太…」 「誰もなまえのことが迷惑なんて思ったこと一度もねぇよ!だから勝手に家出てくなんて「ダメだよ。そんなの!」 うつ向いたなまえの表情は分からないけど、床のじゅうたんの色が小さな丸で濃くなった。 「なまえ…」 「ブン太…あたしは何もできない自分が嫌なの…。変わらないといけないの…」 「だからって」 「前から決めてた。卒業したら一人暮らしするって。それが少し違う形で少し早くなっただけ…」 だから、心配しないで?って言って微笑むなまえ。 俺は好きな奴を引き止めることも今、告白することもできない。なんて臆病な人間なんだ…。 「俺…」 「今までごめんね、ブン太」 ありがとう。 そう一言呟いてなまえは部屋から出ていった。 待てよ…。俺、まだお前に何にも伝えてねぇよ…。ずっとずっと前からなまえが好きだった。でも、本当の気持ちを真剣に伝えて振られるのが怖かった。それでも、かわいいとかほっぺにキスしたりしたら俺の気持ちは伝わると思っていたけど…全然伝わってなかったんだ…。つか、伝わるわけねぇよな…。 「くっそ…」 なまえの部屋で冷たいものが一滴、俺の頬を伝う。無力な俺はただ泣くことしか出来なかった。 2010.4.4 (修正2011.5.16) |