「ぐー…すぴー、…」
あたしは今、大変悩む状況にいたりする。
「ぐぅー…」
大学が終わってから乗る時間のバスに乗ったら、隣に中学生の男の子が座ってきた。それはいつもこの時間によく見かける子だった。大きな鞄を背負って、よく寝てるイメージ。その子が今まさにあたしの肩の上で規則正しい寝息を繰り返している。
「次は北区役所前。北区役所前」
あたしの降りるはずの停留所だ。でも、彼が起きる気配は全くない。
「次は東町一丁目。東町一丁目」
通り過ぎてしまった。一つため息をついて、視線を彼に向ける。だって、こんなに幸せそうに寝ている人を起こすなんてなんか罪悪感を感じるし…。なんだか起こしてはいけない気がした。停留所を通り過ぎてしまったのは事実なんだけど…。
「んっ…くー」
少し癖のある髪の毛が首元に触れてくすぐったい。…って、あたしはなに考えてるんだ。早くどうにかしなきゃ。
「えっと…」
うわー、この子まつ毛長いなー。けっこうかっこいいと思ってたんだよね、前から。あれ、あたしって年下好きだったけ?
「どうしよう…」
どんどん人が減っていく。終点に近づくにつれて下車していく人が増える。この子はどこで降りるつもりなんだろう。
「ぐー…っ、んがっ!」
「!」
起きた!
「あれ〜…。俺、寝てた…?」
頭を掻いて、寝ぼけた声で彼は言う。
「次は終点。終点」
「え、うっそ!ありえねぇ!」
嘆く彼を見て、ちょっと罪悪感がわいた。起こしてあげた方が良かったのかな?
「あ、っと…。す、すみません!」
「え?」
「俺のせいで降りられなかったッスよね…?」
しゅんとした顔をして、彼は謝ってきた。
「あ、ううん。大丈夫だよ」
だって、起こさなかったのはあたしがしなかったからだし。もう少し、寝顔を見たいと思ったからっていうのもあるし。
「どうもッス」
うわっ。すっごいかわいい。笑顔が眩しく感じる。
「あのー、このあと何か予定とかあるんですか?」
バスの終点でとりあえず降りると、彼がそう聞いてきた。
「家に帰るだけだから、特にないけど…」
「じゃあ、もしよかったらご飯行きません?迷惑かけたお詫びに」
人懐っこい笑顔で彼は言う。今からだとバスを30分程度待たなきゃいけない。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「ほんとッスか!?よっしゃー!」
そういえばあたし、この子の名前も知らないんだっけ。せっかくだし仲良くなるいい機会かも。
「ここのお店すっげーうまいんスよ」
連れてこられたのは近くのラーメン屋。あはは〜、さすが中学生。
「おっちゃん!しょーゆラーメン、2つ!」
「あいよ!なんだ、切原くん。今日は友達じゃなくてこんな綺麗な子連れて。もしかして、これかい?」
「ち、違いますよ!」
店主さんが小指を立てて茶化すと彼はすごく顔を真っ赤にさせた。この子キリハラくんっていうんだ。
「キリハラくんの名前は?」
「あ、赤也ッス!切原赤也、中学3年ッス!」
突然立ち上がって、礼儀正しくお辞儀しながら自己紹介する赤也くんに対して、あたしは思わずクスリと笑う。
「あたしは「なまえさんですよね。知ってます」
え?
「前に立海大に行った時、大学の入口からなまえさんが出てくるの見たんです。それで立海大の知り合いに聞いてみたら、同じ学部だから知ってたみたいで…。しかも同じバスだって、そん時知ったんス。それからは俺、ずっとなまえさんと話したいと思ってました」
空いた口が塞がらない。驚きすぎて何も言葉が出てこなかった。
「べ、別にストーカーとかじゃないッスよ!?」
心臓がバクバクする。何、この気持ち。
「実はあたしも赤也くんのこと少し気になってたんだ」
「ほ、ホントッスか!?」
「うん。よくバスの中で寝てる子だなって」
うっ…それは何か期待してたことと違う…。なんて少し涙ぐませながら赤也くんは言った。
「でも、赤也くんの存在は知ってたよ」
かっこいいなって思ってた。と付け足すと赤也くんの顔がパアァアっと明るくなった。あ、かわいい。
「俺、なまえさんと話せて嬉しいッス!感動ッス!」
「あたしもよかったよ」
赤也くんは人を惹きつける魅力があると思う。だって、こっちまで自然と笑顔になるから。
「本当はなまえさんの隣に座った時、話しかけようかめっちゃ迷ったんス。でも緊張しすぎて眠っちゃって…」
「あははっ。緊張したら普通は寝れないよ?」
「え?そうッスか?」
赤也くん、すごくおもしろい子だなー。もっとこの子といろんなことを話したい。
「あの、なまえさんって…彼氏とかいるんですか?」
「いないよ?」
「マジッスか!?」
赤也くんの目がキラキラと輝いた。あたしは彼氏いなくて寂しいんだから、そんなに喜ばないで欲しい。
「じゃあ今度の日曜、デートとかどうですか?」
「え…?」
聞き間違えかな?今、デートって…。
「嫌ッスか?」
「え、あたしとデートするってこと?」
「はい!」
まさかの展開に驚く。こんなかっこいい子とデートができるって、もう一生に二度とないかも。
「うん、しよっか。デート」
「やったー!」
ニッコリと答えれば、赤也くんは立ち上がってガッツポーズをした。
「じゃあ、俺のアド教えます!」
「うん。ありがとう」
赤也くん、とアドレスを登録して空メールを送る。
「俺、なまえさんの連絡先がわかって幸せッス」
ニコニコと笑う赤也くんがそんなことを言った。同時にあたしの顔は少し火照って、胸がドキドキと高鳴った。
バス内恋愛
(あ、なまえさん!…隣いいッスか?)
(うん!どうぞ)
― ― ― ― ― ― ―
なんてベタな展開(^q^)
最後は違う日にバスで会ってみたいな感じです(*^^*)
2012.2.12