Black valkria




放課後を告げる予鈴が鳴る。窓の外は薄っすらと、茜色に染まり、生徒達は足早に教室を出て行く。


「紫乃ちゃん、一緒に帰ろうー」


「あ…うん」


隣で鞄を背負い、もう帰り支度を整えた遊戯君。教室でいつまでも、座っているのは私だけだった。
転校初日から、精神面が随分傷ついたよ。やや遅れて、力無く彼に頷いた。


「獏良も誘って帰ろうぜ!…て、あれ?獏良は」


「先に教室を出たんじゃないかな」


教室の何処を探しても、漠良君の姿は見当たらない。漠良君、イモジャージに会ってから、ずっと元気なかったし。
……あぁ、あの野郎!!思い出すだけでも、腹が立ってくる。地団駄踏みたい気分だ。


「じゃあ、追いかけよう!」


早くしないと、獏良君が帰っちゃうよ!遊戯君の言葉を合図に皆掛け出す様に、漠良君を追い掛けた。










校門の前でやっと、獏良君の後姿を見つけた。声を掛け引き止めると、彼は足を止め、振り返った。


「あ、皆…!」


「明日、迷惑じゃなければ、学校帰りに獏良君家で『モンスター・ワールド』をやりたいんだけど…どうかな?」



獏良君家が駄目なら、僕ん家でもいいけど。


「え……」


「やっぱり、迷惑かな…」


漠良君は困った様な複雑な表情になった。その表情を拒絶と、判断した遊戯君はしゅんと項垂れる。
そんな遊戯君を見て、漠良君は慌てた様子で違う!と声を張り上げた。道行く生徒達が興味津々にこちらを見る。


「いや…そんなんじゃない!僕も皆とゲームがしたいさ!」


少し黙って、獏良君は視線を少し泳がせると、覚悟を決めた様に口を開き始めた。





「実は…前の学校でも友達を集めて盤ゲームをしたんだ…するとその後、必ず不思議な事が起こるんだ。
僕とゲームをした人は次々意識を失い、今も昏睡状態が続いているんだ…信じてもらえないかもしれないけど…」


本当の事なんだ。か細い声で呟くと漠良君は拳を握り締め、俯く。


「そんな事件が続けば、周りの人は僕を避けるのは当然だろ…学校を転々としたのも、それが理由。今では家族と離れて、一人暮らしをしてるくらいさ…」


僕も皆と仲良くなりたい!ゲームだってしたい…!





「だけど、僕は決めたんだ…これ以上、友達を失いたくない…だから、僕なんかと友達にならない方がいいよ…それじゃあ…っ」


そのまま獏良君は走り去って行った。その場にいた者は誰一人、彼を追い掛ける事が出来なかった。










その帰り道、気まずくてあまり、会話は弾まなかった。
城之内君、本田君、杏子ちゃんとはもう別れ、今は遊戯君との二人っきりになっていた。お互い何も言わずに黙々と歩き続けている。
遊戯君は黙ってずっと下を向いてる。表情はよく見えないけど、多分暗い。





「(ち、沈黙が…)遊戯君、私こっちだから…」


「ねぇ、紫乃ちゃんは…」


じゃあ、と行こうとした私を遊戯君は呼び止めた。不安そうな表情で見つめられ、戸惑った。


「うん…私が?」


「紫乃ちゃんは…ううん、なんでもないや」


言い掛けた言葉を飲み込んだ。


「じゃあ、バイバイ!また明日ね」


そのまま遊戯君は手を振り、走って行った。
その小さな背中が見えなくなるまで私はそこに突っ立ていた。


「また、明日…」


遊戯君は一体何を言い掛けたんだ。
でも……本当に今日は疲れたな。制服の前を少し緩めてため息を付いた。






END


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