Black valkria




「城之内君。そこ違うよ」


「え、どこ」


「問い五の途中計算」


「ゲ、ここちょっと、不安だったんだけど、やっぱりか」


「ちょっとした計算ミスだから、似た様な問題やっていけば、すぐに解ける様になるよ」


「うがー数学はどうにも、苦手だぜ」


怪獣みたいな呻き声を上げ、城之内君は机に突っ伏した。これで何回目かな。


「…城之内君。私の目を見ながら、なんの教科が得意なのか、言ってみなよ。体育と美術と保健以外で」


「アリマセン」


尋ねると、城之内君は机から身を起こして、片言でシャープペンシルを握り直した。
「ちくしょうー今日の紫乃はSだ」とかなんとか言い出して。流石の温厚な私でも怒るよ、城之内君。





「城之内ね、次の数学の小テスト落としたら、一週間裏庭の草むしりなんですって」


「道理で必死に机に齧り付いてる訳だ。紫乃にまで勉強見てもらって」


「鏡野君も人がいいよねー」


上から、杏子ちゃん、本田君、御伽君。
遊戯君と漠良君はTRPGの新たなシナリオ作りに夢中になっている。


「うるせ!俺はな、草むしりなんぞで俺達の貴重なデュエルの時間が減るのが嫌なだけだ!!」


「決して、地味でつまんねぇ、何が出てくるか分かんねぇ、不気味な場所で草むしりをするのが嫌って言う訳じゃ」


裏庭は今年に入ってから、まだ一度も手を入れられていない為、雑草は伸びに伸びて、亜熱帯の森林の様な…とは言い過ぎか。
それでも、不気味に草木が鬱蒼と生い茂っている。あまりにも、不気味なので、あそこには何か潜んでいるとまで、噂が立つ程に。
自分で言っている内に城之内君の顔は青くなっていく。あぁ、私もあんな不気味な裏庭に城之内君を行かせなくなんかない。
同じ、怖がり同士助け合わなくてはね。


放課後教室に残り、普段から使われている様子の無い新品同様の数学のテキストとノートを広げ、城之内君はまた唸る。





「嫌なんだ草むしり」


「あぁ、嫌なんだな」


「怖がりだもんね、城之内君は」


「う、うるせ!」


「城之内君。また間違えた」


三人がからかう様に言うと、単純な城之内君は集中出来ずに喚く。
折角、途中計算いいとこまで行ったのに、勿体無い。


「かー集中出来ねぇ!お前等邪魔すんなら、帰れ!」


「ふふ、城之内にいつまで耐えられるかしらね」


「俺等、遊戯ん家寄ってっから。勉強飽きたら、お前等もすぐ来いよ」


「頑張ってね、城之内君!じゃあ、紫乃ちゃん、城之内君、また明日ね」





「くそーあいつ等、絶対俺がすぐに勉強をやめると思ってんだろうな!」


「あはは、じゃあ、頑張って皆を見返そうか、城之内君」


「それは無理かも」


「即答した!」


「まぁ、やれるだけはやっけど…こうして、お前にも、付き合わせちまってる訳だしよ」


照れた様に城之内君はありがとよ、と小さく言う。
まだ、小テストの結果も出てないのに、今からお礼を言われても、私が照れるだけじゃないか!





小テスト
(城之内君はやれば出来る子!)(あ?何だよ)(ほら、ここあってるよ)(おお!俺スゲェ!)


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