Black valkria




振り返ったら、すぐ目の前に今倒したばかりのレア・ハンターの顔が…予想外の展開に「ほっがああ!?」間抜けな声を出して、後退りした。
近ッ!超近いんですけど!?後、一センチで私のファーストキスがこんな訳の分からん男に奪われるところだった!


『あぁ、驚かせて、ごめんよ。君の近くにいるこの男はちょっと、動かし辛くてね』


そう言いながら、レア・ハンターの動きは急にぎこちなく器械の様な動きになり、その声と雰囲気もガラリと変わった。
色んな意味で怖くなって、思わず身構えると、レア・ハンターは大げさに肩を竦めて、謝った。


『挨拶がまだだったね、僕はマリク。少し離れた場所から、この男を通して君と会話をしているんだ』


全く、何を言っているんだか。レア・ハンターは二重人格の上電波ときているらしい。参ったね、こりゃ。


「えっと、つまり、その…電波で?」


『電波!?アハハハハ!そのジョーク面白いね!電波って、電波って…僕は周波数かよって!アーハハ!!』


ガックンガックン体を揺らして、笑い声を上げるレア・ハンター改め、マリク。
異常な光景に段々、人が集まってき始めた。いや!あの別に私面白い話なんてしてませんから!
そんな期待する様な目で見られても、何にもありませんから!





『あはは、可笑しい!こんなに笑わせてもらったのは久しぶりだよ。ありがとうね、紫乃』


「いや、別にそれ程でもないです」


マリクの笑いが収まると、野次馬も次第に居なくなった。私は早く、マリクから、離れたくてしょうがなかった。


『これは僕の持つ千年錫杖の力。他人の記憶を支配し僕の思いのままに操る事が出来るのさ…』


「へぇ!そうなんです…か、」


頷き掛けて、ふと、イシズさんの言葉を思い出す。千年錫杖、それは最後の千年アイテム。
もうすぐ最後の千年アイテムを持つ者が現れると言う。それはもう一人の遊戯君の――王の敵。
漸く気付いた。マリクの額に浮かぶ光る眼。ウジャド眼って言うんだっけ。千年アイテムについているのと同じ。





『ふふ…もっと、君とのお喋りを楽しみたいけど、今はあまり時間が無いんだ。はい、アンティのレアカードとパズルカードだ』


「君は、一体何の為に私の前に現れた」


私の表情が変わったのに気が付いたマリクは急に声のトーンを落として、私にアンティのカード等を渡してきた。
それ等を受け取りながら、私はマリクと言うその男に訊ねた。


『ただ、純粋に君と話しをしてみたかったんだ。僕は君にとても、興味を持っていてね。
君とは仲良くなれそうな気がするんだ。――同じ、"王の敵同士"気が合いそうだろう』


「!!」


『じゃあ、またいずれ会おう紫乃』


「待ってマリク!君は何を知っている…ッ」


掴み掛かって問いただしたが、既にレア・ハンターからマリクの気配は消えていた。





「はは、覚悟してたけど…痛いよ」


私はもう一人の遊戯君の敵だったなんて。
マリクの言葉が胸の深くまで突き刺さって、とっても痛かった。





END


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