Black valkria




最初に見えたのは黒。何も見えない暗闇。目の前が真っ暗で最初は目を瞑っているからだと、思った。
だけど、どうやら、違うみたい。今は夜、真夜中みたいで見上げると、頭上には満月と星が見える。
周りが真っ暗なのは街灯が全く無いからだろう。いつの間に外に出たんだろう。悩んでも答えは一向に出ない。
自分がその前にどこで何をしていたかえさえも、思い出せない。やがて、悩んでいる内に目が慣れてきた。
少しずつ、辺りが見える様になってきた。





「…ここは…」


目が慣れたと言っても、闇雲に歩くのは危険だと思いつつ、一歩踏み出した。素足で感じるのは柔らかな…砂。
砂浜、いや、違う。波の音がしない。間違いない、ここは砂漠だ。何故に砂漠?





「……え」


不意に足の裏に生暖かいぬるりとした感触を覚え、立ち止まった。
目が慣れても、足元に転がる"何か"をはっきりと、確認する事は出来ない。




「こ…れは…」


急に日が昇り、辺りが明るく照らされた。眩しさに一瞬、目が眩んで体がふら付く。
やがて、ゆっくり、瞬きを繰り返し、目が慣れ漸く、足元に転がる"それ"を確認出来た。人間だ。
血塗れで白目を剥いて、死んでいる、死体。一体だけではない。そこ等中かしこに。
白昼堂々と転がる死体の山はどれも皆、ぐちゃぐちゃに切り裂かれ、原型の分からない程のもあった。
その中に私一人だけがぽつんと、佇んで酷く浮いている。これは、何だろう。テレビの見過ぎか。
とにかく、私には死と言うもの対し、全く免疫が無い。この恐ろしい光景に込み上げてくる吐き気。











べっとりと、血塗れた自分の両手。手だけじゃない。体中に返り血の様なものが沢山くっ付いている。
手も、足も、顔も、真っ赤ですぐにどす黒い色へと、変色していく。あぁ、これは本当に何なのだろう。


「わた、し…私…が――」


頼りないか細い声で紡いだ言葉は周りに溶けて言える。訳も分からず、砂漠に一人きり。
辺りには切り刻まれた死体の山。おかしくなりそうだ。いっそ、泣き喚ければ良かったのだが何故か、それも叶わず。
その場に膝を付いて、頭を抱えた。





「悔いる事はないわぁ」





突然、背後から、湧いた女の声に振り返る。その声はのんびりとしていて、どこか、鋭さがある。
その声が救いの主の様に聞こえた。


「こいつ等は私達に忌まわしき種を植え込んだ屑共なんだから」


「…アメ、ティスタ……」


褐色の肌に深い紫色の瞳を持つ女はそう言い、足元に転がる死体を冷たく見下ろした。
そうだ。この人は…アメティスタ。彼 女 は 私 の 、





「さぁ、行きましょう」


彼女は私に向かって、優しく微笑み、手を差し伸べた。その手を見つめ、縋る様に彼女を見つめ返した。
警戒等、していなかった。何処へ…口にした途端に視界が白く霞んでいった。


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