Black valkria




状況が悪くなる中で、引き当てた光の護封剣で、シャドー・グールの攻撃を封じても、レベッカの余裕はたっぷりだ。
遊戯君が召喚した切り札のブラック・マジシャンも、シャドー・グールの攻撃力には敵わない。
更に彼女が新たに召喚したのはキャノン・ソルジャー。モンスター1体を生け贄にして、相手に500ポイントダメージを与える効果を持つ。
これで相手ライフにダメージを与えつつ、墓地を肥やして、シャドー・グールの攻撃力をアップさせていった。


シャドー・グールの現在の攻撃力は2800。遊戯君のライフはもう僅かだ。
レベッカがこのターンエンドを宣言したら、光の護封剣の効果は消えてしまう。
このターンが遊戯君のラストターンだと、思うのだが、例え起死回生のカードを引いたとしても。
遊戯君は優しいから、きっと――





「僕のターン」


皆が見守る中、遊戯君はドローしたカードを少し眺め、やがてそのカードをデッキの一番上に戻した。
そして自分のデッキの上に手のひらを乗せた。サレンダー、降参だ。


「あたしの勝ちね!」


「うん、僕の負けだよ」


当然の当然の結果よ!そう言わんばかりにレベッカは得意げに笑顔を浮かべた。
素直に頷く遊戯君の顔をろくに見もせずにデュエル・リングから、飛ぶ様に降り、おじいさんの元へ走った。


「さ!青眼を返して」


おじいさんは困った様な申し訳ない様な表情を浮かべると、懐から取り出したカードをレベッカの小さな手に向け、差し出した。
そのカードは真っ二つに裂かれ、裂け目がテープで修正されていた。それを見たレベッカは目を引ん剥いた。





「破ったのね…!?おじいちゃんが大切にしていた青眼を!!」


「すまんと思ってる「だから、返そうとしなかったのね!キィィィ!!許せない!!」


おじいさんに言葉を紡がせる間も無く、レベッカはヒステリックに叫んだ。
手を付けられない程、怒り狂った彼女に何を言っても、取り合ってもらえない。


「いや、最初から、返すつもりだったんじゃが…」


「ふん!言い訳なんか聞きたくない!「待たんか、レベッカ」





「おじいちゃん!」&「アーサー!アーサーじゃないか」


声の方へ振り向くと、物腰の柔らかい老人が現れると、レベッカとおじいさんが、同時に叫んだ。
この人が、おじいさんの親友の…アーサー・ホプキンス氏!





再会を懐かしむ二人は歩み寄り、アーサー氏はレベッカのじゃじゃ馬っぷりに謝罪の言葉を口にした。
この和やかなムードから、レベッカが憎々し気に語っていた青眼強奪事件なんて、全く想像出来無い。
アーサー氏はおじいさんの事を全く、恨んではいない様ではないか。


「遊戯君、いいデュエルだったよ。君も双六に似て、素晴らしいデュエリストだ」


微笑みながら、遊戯君の元へ歩み寄ったアーサー氏は目を丸くする彼のデッキの一番上のカードを引いた。
そしてそのカードを見て「やはり」と、小さく頷く。


「レベッカ、今のデュエルは遊戯君の勝ちだ」


「えぇー!?そんなはずない!」


「レベッカ、このカードを見なさい」


甲高い声を上げるレベッカを含め、背景と化していた我々も遊戯君の元へ駆け寄った。
アーサー氏が見せたカードにレベッカは小さな声を漏らした。





「『魂の解放』…このカードは互いの墓地から、5枚までカードを除外するカードだよ」


このマジックカードを使っていれば、遊戯君はこのデュエルに勝っていた。
前に使った事のあるカードだった。私の呟きに頷き続けるアーサー氏。


「もし、遊戯君が最後のターンでこのカードを出していれば…」


お前の墓地から、モンスターカードを5枚除外され、シャドー・グールの攻撃力は2800から2300に下がる。
そして攻撃力2500のブラック・マジシャンとバトルすれば…。


「あの時、レベッカのライフは200。丁度、ライフは失われる事になる」


「じゃあ、遊戯は…わざとサレンダーを…?どうして!」


一瞬シュンとした顔をして、すぐにレベッカはなんでよ!と強く遊戯君を睨んだ。あまりの迫力にか、遊戯君は曖昧に頷く。


「まだ、分からんのか」


「遊戯君は双六譲りの心優しい少年と言う事だ。勝ち負けしか考えられないお前の心を救おうとしてくれたんだよ。遺跡に閉じ込められ、最後の水を賭けてデュエルをした時、――双六が私の命を救おうとしてくれたようにな」


|



- ナノ -