Black valkria




「お…おばさぁぁあんっ!」


「紫乃!」


病院の待合室のド真ん中で私は久しぶりに千年お姉さんの姿を見ると、泣きながら駆け出した。
お姉さんも両手を広げ、私を迎えてくれている。感動の再会になるはず、だった。





「おばさんって言うなつってんでしょうがッ!!」


私はまだ、二十代なのよおおおお!
抱き締め様とした私の腕を引っ掴み、そのまま素早く十八番のコブラツイストを掛けてきた。
計算外だった。お姉さんったら、ぬいぐるみに封印された魂が本体に戻って、すぐこんな大技を掛けてくるとは…。


「いだだだだっ!でも、嬉しいからいいや!」


決してドM発言では無く、お姉さんが元通り、元気な人に戻ってくれて、嬉しいからです。
断じて苛められるのが好きとか、そんな趣味は無い。





王国でのペガサスとの闘いを終え、無事に童実野町に帰って早数日。
千年眼の力でビデオカメラとくまのぬいぐるみに魂を封印された遊戯君のおじいさんと千年お姉さんの魂が解放され、全てが元通りとなった。


そして今日はお姉さんの退院日。
ぬいぐるみに魂を封印されていた時から、「あれが食べたい。これが食べたい」と、言っていたので料理を作ろうと思う。
うん…お姉さん、元気そうだけど、随分やつれている。本人が食べたいと思っていても、急にたくさん食べたら体に悪い。
食べやすく柔らかく作ろう!おかゆ、とかも用意した方が…あぁ、嘘です。冗談です。
別にこれは年寄り扱いじゃなくて、お姉さん一応、病み上がりなんで…お姉さんッ!










「これ……」


テーブル一杯にに並ぶ料理を見て、お姉さんは絶句した。自分でも作り過ぎたと思う。
お菓子とかは全く作れないけど、料理だけは母さんに厳しくご指南して頂いたお陰で、メニューがあれば、一通り作れる。


「ア、アハハハ!ちょっと作り過ぎちゃったみたい」


「ちょっとどころじゃないわよ」


これなら、パーティでも開けるわとお姉さんが、苦笑いする。笑って、改めてテーブルを眺めると、端から端まで料理で隙間が無い状態。
それは退院したばかりのお姉さんと、健康な私が食べ切れる量を大きく超えていた。キッチンにはまだフライパンや鍋の中にはまだ盛り付けていないものが、まだまだある。


「…張り切り過ぎました」


「余った分はラップして明日に」と言い掛けて、お姉さんは言葉を止めた。そして暫しの沈黙を経て、こう切り出した。





「遊戯君のおじいさんも病院が違ったけど、今日退院したのよね。一緒に退院祝いをしませんって誘ってみましょう?紫乃のお友達も誘って」


遊戯君のおじいさんと、千年お姉さんの入院した病院は違うが、退院日が重なってしまった為、後日挨拶に行く事になっている。
あまりお姉さんは遊戯君達の話をしたがらないから、内心病院が違って、ホッとしていたのだが、まさか!


お姉さんから、そんな言葉が出るなんて。ペガサスの変な力が今頃になってお姉さんの人格に影響したんじゃないかと、少し怖くなった。


「い、いいの?だって、お姉さん…」


遊戯君達の事、嫌いなんじゃあ…。ずっと、口に出すのを躊躇っていた事だ。
お姉さんは良くも悪くも正直だから、はっきり、遊戯君達を嫌いだと、言われる事が怖かった。
恐る恐る問い掛ける私にお姉さんは小さく首を振った。


「別に遊戯君達が嫌いじゃないわよ。ただ、ちょっとね…私も大人気無かったって事よ。ほら、早く遊戯君達を誘ってらっしゃい」


「あ、うん」


ため息を一つ付いて、お姉さんはただ明後日の方向を向くばかり。そして首を傾げる私を急かす様に促した。
玄関から押し出されると、気を取り直し、遊戯君の家へ向った。皆も多分そこにいるだろう。


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