Black valkria




「大丈夫、一人で行けるよ。うん」


じゃあ、また後で…そう言って、公衆電話の受話器を置いた。電話の相手はこれから、お世話になる千年叔母さん。
父さんと叔母さんは歳が離れているので確か、まだ二十代半ばくらいだ。子供ながらに綺麗な人なぁと思っていた。怒ると、本当に怖いけどね。


叔母さんは有名な海馬コーポレーションの本社がある童実野町に若くして、マンションを買って住んでいる。
中学に上がる前は何度か、遊びに行った事があるが、ここ数年は全くと言っていい程、連絡を取っていない。
住所も、何となく覚えている程度で少し、心細い。これから、お世話になるのに今から、こんな事で迷惑を掛ける訳にはいかない。





「変わったな…」


随分、変わってしまった町並み。数年でこんなに変わってしまうんなら、未来は一体、どうなっているのか。
くだらない事を考えている場合ではなかった。私は重たい足を上げた。










「ここ、どこ」


うる覚えで当てにしてはいけない直感に頼り、進んだ結果がこれだ。所謂迷子。
高校生にもなって迷子かよ!情けなさ過ぎて、涙が出そうだ!!





「見覚えがある様でない様な」


ゆっくり、周りを見回して、平常心を取り戻そうとした。しかし、道を思い出そうと記憶の糸を辿ってみると、道とは関係ない事を思い出した。
確かここ等辺で…昔、友達が出来たんだ。小さい男の子で笑顔が天使の様に可愛くて、ゲームが大好きな子だったな。名前は確か、





「うわぁぁー!!」


喉の置くまで出掛かっていた名前を口にしようとした時、何かが、私の真横を通り過ぎた。
回想中で視界が狭まっていた為、その何かが確認出来なかったが、見なくても分かったのはそれが悲鳴を上げて、逃げていると言う事だけ。
振り返れば大型犬から、必死に逃げている少年の後姿が目に入った。


その独特の髪型に高い声はたった今私が思い出していた男の子にそっくりだった。
だけど、不思議とあの少年が彼だとは思わなかった。最後に会ったのはもう五、六年前だ。
男の子なら、成長期真っ只中または後半。どう見てもあの子は小学生だと、結論付けた。





「あの犬、野良犬かな」


首輪付けてないし。
今にも少年に飛び付きそうな犬に丁度、足元に転がっていた空き缶を素早く拾い上げ、投げた。コントロールは悪い方じゃないから、命中してくれるといいんだけど…。
空き缶は真っ直ぐ犬の頭部目掛けて飛んでいき、見事に命中。「きゃん!」と甲高い鳴き声を上げ、地に伏せると犬はどこかに去っていた。


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