Black valkria




「よお、紫乃」


翌日、廊下に出てすぐにもう一人の遊戯君達と会った。おはよう、と声を掛けられ振り向いた。
彼の顔を見た途端、挨拶が引っ込んだ。細い両肩を掴んでもう一人の遊戯君の顔を凝視した。


「ゆ、ゆゆ、ゆゆゆゆゆ、遊戯君!その顔どうしたの!?」


右頬に殴られた痕が…!昨日の別れ際にはそんなの無かったのに!


「あぁ。ちょっとな…」


苦笑いをして、視線を逸らされた。あまり言いたくなさそうなのでそれ以上深く聞かなかった。





「え…本田君と漠良君が?」


「あぁ、部屋にいねぇんだよ…何処行ったんだあいつ等…」


「…漠良君なら」


後からやって来た城之内君に、そう言い掛けて口を閉じた。皆はもう一人のバクラ君はもう存在しないと思っている。
だけど、今私が昨日バクラ君に会ったと言ったら、気が逸れて優勝戦の妨げになるかもしれない…。


≪紫乃? 今何か言ったかしら≫


両腕で抱えているお姉さんに何でもないと首を振った。今は言うべきじゃないと自分の胸に密やかにしまって置く事にした。










「優勝決定戦の参加者達よ。お待ちしておりました!どうぞ、決闘の間へ」


剣と盾が掲げられている扉を潜るとホールになっていた。中央にはデュエル・リングが設置されていた。
中では既に対戦相手となるデュエリスト達が、私達を出迎えてくれた。


「フフフ…おはよう。ボーヤ達」


舞さんのその目は昨日見た優しさは無く、己の立ちはだかる者を潰すデュエリストの目だった。
その眼差しはもう一人の遊戯君ただ一人へと向けられた。





「ククク…城之内。昨晩の礼はてめぇが、無事にデュエル・リングに立っていられたら返すつもりだぜ!」


「上等だぜ!キース!元全米チャンピオンだか知らねーが…俺のカードでぶっ倒してやるぜ!」


元全米チャンプのキースも挑発と皮肉交りに城之内君に言った。
あぁ、城之内君が挑発に乗りそうだなと眺めていると私の前に顔色の良くない青年が現れた。





「鏡野君」


「…聖さん」


名前を呟くとそのまま無言で互いを見つめ合った。沈黙を先に破ったのは聖さんからだった。


「僕は、君を許しません」


「――許してもらう為にあなたの前に現れた訳じゃないです。私は…今度こそ聖さんと決着を着けるつもりで今、ここにいます」


身勝手ですいませんと付け加えて苦笑いした。聖さんは少し黙ってそれから何か言おうと口を開いた瞬間それは遮られた。





「誇り高きデュエリスト達よ!聖戦の地にようこそ!!」


広間にいた者全ての視線が、現れたペガサスに向けられた。


「今ここに優勝者決定トーナメントを開始しマース!」


ペガサスからトーナメントの簡単な説明がされ、いよいよトーナメントが始まろうとしていた。しかし未だに本田君と漠良君の姿が見えない。


「フフ…果たして私を倒すのは誰でしょうネー!とっても楽しみデース!」


玉座の上で妖しく笑うペガサス。目が合うとウインク一つを寄越されて、邪険に手で払った。
すぐにその王座から引き摺り下ろしてやる。





トーナメント一回戦はもう一人の遊戯君対舞さん。
序盤、もう一人の遊戯君は単調な攻めに急ぎ、簡単に舞さんの罠に掛かった。ハーピィ・レディのコンボに翻弄されて状況はかなり悪かった。
しかし、引き当てた光の護封剣で3ターン攻撃を防ぎ切り、光の護封剣の効果が消えるラストターンで伝説の剣士カオス・ソルジャーを召喚した。
そして舞さんのハーピィズペット竜を倒し、ハーピィが傷つく姿を見たくないと舞の降参でもう一人の遊戯君の勝利となった。





続いてトーナメント二回戦キース対城之内君。緊張気味に大きく頷いて城之内君は前に出た。あぁ、完全に上がっちゃってるよ。


「城之内君!いよいよだぜ!」


「特訓の成果を見せる時だよ」


「おーし!行くぜ!」


意気込む城之内君だが、参加証を忘れてきてしまったらしい。





「もぉー!何やってんのよ城之内!」


「多分、部屋に置き忘れて来たに違いねぇぜ!ひっと走り部屋に戻って、カードを取って来るわ!」


「五分だ!」


駆け出そうとする城之内君に審判は無情に言った。


「五分経過後、私に参加証を提示出来ぬ場合お前を失格とする!」





「そんな無茶な!城之内君…私のカードを使ってよ」


私は自分の王の右手の栄光のカードを城之内君に差し出した。しかしそのカードを少し見て城之内君は首を横に振った。


「…遠慮するぜ、紫乃!それはお前カードだ。大丈夫心配すんな、ちゃんとカード取って戻ってくっからよ!」


そう言い終わる前から城之内君は走り出して行った。


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