≪…?……
紫乃?…
紫乃!!!≫
「のわぁあっ!?ビックリした…お姉さん、そんなに大きい声出してどうしたの」
お姉さんの大きな声で意識が急に覚醒した。間抜けな声を上げながら立ち止まると、少しふら付いた。
≪それ以上前に進むと頭打つわよ≫
「へ?……あ」
何と?聞き返す前に目の前に硬そうな岩が飛び込んできた。
気付かずにそのまま歩い続けていれば額がサックリと割れていただろう。
岩をまじまじと眺めて二、三歩後ろへと下がった。
「うあ、危なかった…っ」
≪…大丈夫?疲れが溜まってきたんじゃないかしら≫
「いや、そんな事は」
おかしいな。歩いていた時の記憶が無い…誰かと会っていた様な気がするんだけど――。
≪ねぇ、ここ!洞窟みたいじゃない≫
ぬいぐるみの可愛らしい小さな手を精一杯伸ばして岩の横の不気味な闇の世界の入り口を指し示した。
「本当だ!うん。ここなら、聖さんが潜んでそうな感じがする」
お姉さんが小さなため息を付くのが聞こえた。え、私何か変な事を言っただろうか。
≪本当に暗くてじめじめしてるわね≫
洞窟の中を暫く歩くと、ぬいぐるみが少し湿気を帯びてお姉さんは気持ちが悪いと不服を漏らした。
「外に出たら、乾かしてあげますからね。もう少し我慢して下さい」そう言い終える前に気配を感じた。
例の如くお姉さんに喋らない様に小さな声で促して気配のする方へと向き直った。
「やぁ、鏡野君。随分可愛らしいお供を連れてますね」
今まで薄暗い洞窟内が一気に明るくなった。眩しさに目を細め、高い場所にいると思われる声の人物を見上げた。
目が慣れると目の前にデュエル・リングがあるのが分かった。そしてそこから私を見下ろしているのは黒髪のミステリアスな青年。
「夜世…聖、さん……!」
「待っている間少々遊ばせていただきましたが」
そう言って彼は右手を軽く上げた。その腕のデュエル・グローブのくぼみが全てスターチップで埋まっていた。
「スターチップ10個…どうして、城に行かなかいんですか」
「…僕がこんな島まで来た理由は――それは君と闘う為だけ。そのただ一つだけ」
薄く笑いながら、それ以外はどうでもよいと、彼ははっきり言う。
ただ一回のデュエルの為だけに聖さんは来た。瞳の奥にギラギラと執念の炎が燃え上がっているのが見える。
「大会の事は…本当に悪い事をしたと思ってます」
責められている様で申し訳ない気持ちで胸が一杯だった。
俯く私を見て聖さんにはそんなつもりが無かったみたいで困った様に小さく笑った。
「僕にとって闘わずに得た勝利など、何の意味も無ければ価値も無い」
「さぁ、決着をつけましょうか」
目の前にデュエル・リングに上がり、聖さんと向き直った。ソリッド・ビジョンシステムが起動する。
「スターチップは3個賭けで異存はありませんね」
「はい…ッ」
紫乃 VS 聖 LP2000
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