小説




「なまえさーん!おはようございます!」


学校の玄関に入る直前に急に真後ろから、ポンと強く背中を叩かれ、同時に声も掛けられて私は吃驚してひっくり返りそうになる。
振り向くと、同じクラスの男の子がにこにこしながら立っていた。


「真月君…吃驚して口から朝ごはんでるかと思ったよ」


「わ、すいません。そんなに吃驚させるつもりなんて無かったんです!」


私の驚き過ぎる顔を見て、謝り慌てふためく真月君。
同じクラスだけど、私と真月君はそんなに親しいわけじゃない。だから、急にこんなふうに話し掛けられて吃驚したってのもある。
短い間でも、口癖の「良かれと思って」と人の為との行動を見ていれば彼は人好きそうな性格だから、
仲良しにだけじゃなくて、ただのクラスメイトにもこんな風に挨拶しているだけなのかも。
いい心掛けだと思うけど、される方は私みたいにちょっと吃驚しちゃうかも。





「今日は遊馬と一緒に来たんじゃないんだ」


いつもは遊馬を引っ張って来てるのに。鞄を背負い直しながら、チラリと真月君の誰もいない隣を見た。


「はい。今朝は学校までの最短ルートを探していたので」


……遊馬と真月君、二人一緒に学校来た時、必ず二人は遅刻して格好はボロボロだ。今の真月君は特に目立つ汚れもない。
「近道、見つからなかったんだ」「どうして分かったんですか!なまえさんはエスパーなんですか!」
私が言うと今度は真月君が凄い吃驚した顔をした。


「エスパーじゃないよ」


私がカラカラ笑っていると、真月君はじぃっと私の顔を見ている。
何だろう。私凝視される程、変な顔してる?


「なまえさんって話せば結構笑うんですね」


「え、笑うよ。普通に」


面白ければ笑うし、感情の赴くままに。


「…実を言うと、なまえさんには、ちょっと話し掛け辛かったんです」


え、そうかな?
よく仲良くなった友達は私の第一印象を「大人しそう」だったけど、「話しやすさは抜群だった」って言われてるんだけどな。
男の子と女の子じゃ感じ方、違うのかな。





「それよりなまえさん、宿題やって来ましたか」


どうしてそんな事を?聞こうと思ったけど、真月君が急に話題を変えたので私は開き掛けた口を閉じた。
少し気になったけど、彼のその言葉で宿題を途中までしかやってない事を思い出したからだ。
解んないから、早く学校行って友達に聞こうと思ってて、いつも通りの時間に学校来ちゃったんだ。
急いで教室に行こうとした所為か、何にもない所で私は躓いてしまった。


「ぁ、っ」


前のめりになる身体。けれど、私が無様に転倒する事は無かった。
真月君が私の腕を掴んでくれたからだ。お礼を言おうと首だけで振り返って、私は固まってしまう。





顔が近すぎやしませんか。近づき過ぎて一瞬ピントがぼやけてしまった。
鼻と鼻がくっつきそうな距離だ。


「………?………さん?……なまえさん?」


「…え、!」


「大丈夫ですか?ぼーとして!はっまさか、具合でも悪いんですか」


真月君に手を掴まれたままぼーっとしていて、少し肩を揺すられてやっと我に返った。
私は間抜けな声を上げて、真月君を見つめ返す。相変わらず顔が近い。


私が一歩下がっても、彼が一歩近づくので、気の所為かな…?全然距離がひらかない。
何でもない大丈夫だよと言って、真月君の手を解いて教室に行こうとすると、


「良かれと思って、このまま教室までお連れします」


攫う様に私の手を引いて、教室までエスコートしてくれる事に。


「あ、ありがとう真月君」


やっと、顔が離れてホッとしながら、私は真月君の背中を見る。
真月君はちょっと、変わっているけど、遊馬に対してもこんなんだし…うん、人との距離の取り方がちょっと、下手なだけで。





「真月君って優しいんだね」


話し掛け辛いと思っていた私の手をこんなに簡単に引いて歩くんだし、いい人なんだね。


不意にクスッと笑う声が聞こえた様な気がした。





いいえ、下心ですよ
(え、今何か言った?)(いいえ、何にも!)


title:確かに恋だった
- BACK -


- ナノ -