小説




人間界に来て、俺は天使に恋をする様になってしまった。
汚れを知らない純白に身を包み、背中には真っ白な羽根を生やして、俺に微笑み掛けてくる。
気になる相手は皆、そんな天使に見えてしまうのだ。ギラグに言わせれば俺は惚れやすいらしい。


確かにそうかもしれない。けれど、結局俺にはどの天使も捕まえられない。





「またフラれた」


「アリトって…」


教室で机で突っ伏して呻っていると、隣の席のなまえの声が降ってきた。
席が隣同士と言う事もあるし、喋りやすいってのもあって、なまえにはよく天使の話をした。
いつも呆れながらも最後まで聞いてくれるいい奴だ。


「不毛だね」


「どーいう事だよ」


あぁ、何だよ。と顔を上げる。


「だって、アリトの好きになる相手てさ、大体恋人いる人か、他の誰かに恋してる子ばっかりじゃない」


君の話聞いてると、他の誰かに夢中になっている子ばっかり好きになってるでしょう。そりゃ、振られ続ける訳だよ。


「…え」


なまえに言われて考えてみれば、最初に天使に見えた小鳥は(後で知ったが)恋敵だと思った遊馬を好きらしい。
次に天使と惚れ込んだのは熱いデュエルで意気投合した遊馬。気持ちのいい奴で、惚れたのはデュエリストとしてだ。本人は気付いていないみたいだが小鳥といい感じだ。
その次に俺の胸をときめかせた天使は二つ上の先輩。惚れた三日後に恋人がいる事を知った。
その次も、次も、次も、そうだ。キラキラと輝いている天使は皆他の誰かを見ていた。





「私の友達にアリトの事凄くいいって言ってるんだけど、その子のそういう視線とか態度とか全然感じてないでしょう」


「…ねぇなー」


なまえの友達に?初耳だ。それってもしかして、同じクラスのいつも一緒にいる奴?
全然、そんな視線感じた事ねぇけどな。チラッと今話に出たなまえの友達に振り返る。
俺となまえが話してるのが気になるのかこっちを見ていた。目が合うと真っ赤になって慌てて俯かれた。


可愛い反応だと思うけど――天使には見えない。悪いけど、何の魅力を感じていない。
前を向き直して、机に肘をついているとなまえはそんな俺の心を察して、改まって言う。


「アリト君は恋してる子にしか恋出来ない病なのだよ」


「うわ、俺誰とも結ばれねぇじゃねぇか」


なまえに病名を宣告され、ただの偶然と自分に言い聞かせながらもオーバーなリアクションを取った。


「あはは、いつか治るといいね」


笑うなまえも勿論天使には見えない。ただの友達。





その何日か後、俺は彼氏の出来たなまえに恋をしてしまった。
今まで友達としか思っていなかったのに、急になまえが今まで見えていたどの天使よりも綺麗に見え、目眩がした。
傍にいてほしいとか、触れてみたいとか、キスしてみたいとか…彼氏が出来た途端に今の今までなまえに思ってもみない感情を抱くなんて、何だかもうたまんなくなった。


この前、なまえに言われた通りに俺の好きになる奴は他の誰かを想っている奴だけだ。
特殊な相手ばっか好きになって、更に好きだと思った相手は絶対に自分には振り向かない。それってすっごく悲しいじゃねぇーか、何でだよ。


他の誰かに夢中になっている奴にばかり魅力を感じてしまうのは俺がバリアンだからだろうか。
それとも、俺だけなのだろうか、不毛な恋に落ちてしまうのは。





僕は救えない?
(こんなの救いがなさすぎる)
- BACK -


- ナノ -