小説




*百合










「あら、なまえのその靴…」


待ち合わせ場所にやって来た私の足元を見て、璃緒ちゃんが目を輝かせた。


スケルトンパンプス。
塩化ビニールで出来ているそれはちょっとヒールもあって、まるでガラスの靴みたい。
このパンプスを見掛けた時、私がまだシンデレラに憧れていた子供の時の気持ちをふと思い出した。
いつか王子様が迎えに来てくれるなんてメルヘンを信じていた可愛い時が私にもあった。まぁ、今は全然そんなんじゃないけど。


「ガラスの靴みたいで可愛いですわ!それになまえによく似合ってますわ」


璃緒ちゃんも同じ事を思っていてくれて嬉しい。
でも、このパンプスは私なんかよりも、璃緒ちゃんみたいな女の子の方が似合ってる。
本当のお嬢様で、優しくて、気高くて、誰よりも綺麗で…女の子の鑑みたいな。


「なまえ?どうして靴を脱ぐんですの…」


「よいしょっと…」


私は人目の無いのをいい事にパンプスを脱いで、璃緒ちゃんの前に片膝をついた。
きょとんとする彼女の彼女の白い手を取ると、またなぁにと察しの良い璃緒ちゃんの綺麗な瞳が細められる。





「実は私、この靴にぴったりな女の子を探しておりまして」


「それはまぁ、大変ですわね。こんな広い街をくまなく探さなくてはいけないなんて」


「そこで璃緒ちゃん。ちょっと、この靴履いてみてはくれませんか」


「私で何人目かしら」


「まさか、璃緒ちゃんが最初で最後だよ」


璃緒ちゃん以外にしないよ、こんな事。
私のふざけた遊びに璃緒ちゃんはくすくす笑って、靴を脱ぎ片足を地面から少し宙に浮かせた。
私はガラスの靴もどきを両手で持ち、そっと璃緒ちゃんの足にはめた。まぁ、ぴったり。


「おぉ、璃緒ちゃんこそが、私の探していた女の子だ」


大げさに両手を広げて、これでもかというくらい喜びを表現する。





璃緒ちゃんに出会ってから、私はお姫様よりも、王子様になりたかった。
私は女の子なのに、女の子の璃緒ちゃんに一目で恋をしてしまったから。


でも、私が王子様になる事も、この想いが報われる事も無いのを分かっている。
分かってるから、私は璃緒ちゃんの友達のままでい続ける。友達のままなら、たまにこうして璃緒ちゃんを少しだけだけど、独占出来るんだもの。嫌われないもの。


このパンプスを買ったのだって、これがやりたかっただけ。
やりたい事も出来て満足した。靴を履き直して、さぁ、本日の目的のお買い物に行こう。


「駄目ですわ。なまえ、まだ終わらせては」


「え、もう終わりだよ。王子様がシンデレラを見つけてハッピーエンド」


立ち上がる私の手を掴んで、止める。えぇ、何だろう。





「まだプロポーズも、結婚式も、誓いのキスも済んではいませんわ」


王子様はまだシンデレラを見つけただけでしょう。
そんな事を璃緒ちゃんから言われると、璃緒ちゃんに私と同じ気持ちが無いと分かっていても、違うと分かっていても、どうしようもなく嬉しくなってしまう。


「王子様、何か言う事があるんじゃないんですの?」


綺麗に笑う璃緒ちゃんに私はまた止められない思いを抱く。





シンデレラごっこ
(それでは、シンデレラ)(私とお城で幸せに暮らしましょうか)
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