小説




「今日、パパとママどっちもいないからカイトのお家に泊めて」


一人じゃ寂しくて寝られない。久しぶりにハルト君と一緒に寝たいわ。


「…男の家に軽々しく泊めてくれなんて言うな」


一体、幾つになったと思ってる。一人で寝れないなんて子供みたいな事を言うな。
呆れながら、なまえを見ると断られた事が不満らしく唇をとがらせている。


「幼馴染なんだから、別にいいじゃない」


「幼馴染でも男は男。女は女。少しは慎め」


ありえないが、もしも間違えが起こったらどうしてくれる。


「私まだまだ子供だもの」


それが付き合う男をとっかえひっかえしている奴の台詞か。


子供の頃は一人で歩いていると、誘拐されそうになったり、知らない男に話し掛けられたと言うだけでビービ―泣いていたなまえが、
俺の後ろによく隠れていたあのなまえが、あんなに可愛かったなまえが――


今では気分次第で男を振り回し、最後はゴミでも捨てるように簡単に男を捨てる恐ろしい悪女へと成長してしまった。
別れたくないと泣き付く男に容赦なく、別れを告げ、違う男に乗り換えたり、寄ってきた男達に「私の事好きなら、これくらい出来るようね?」と恐ろしい無理難題を吹っ掛けたり。
今でも忘れられないのがなまえの事を想い過ぎて、白昼堂々無理心中を計ろうとした男がいた事。その時、彼女は年上のボクサーと付き合っていたので、勿論彼女は怪我一つ無い。
あれは下手なホラー映画を観るよりも、恐ろしかった。いつか、彼女が男関係で夜道、後ろから刺されてしまうのではないかと心配だ。


なまえがこうなってしまったのは一体、何が原因になったんだろう。気が付いたらこうなってしまっていた。





「人肌恋しくて眠れないのなら、恋人にでも添い寝してもらえ」


新しい恋人が出来たって言ってたろう。甘える相手を間違えるな…俺はお前の世話係じゃない。片腕にしがみ付くなまえを睨む。


「今別れてきた」


「昨日の今日で別れたのか」


まだ一週間も経っていないじゃないか。今度は長く続かもしれないと鼻歌交じりに言っていたのに。最短記録じゃないか。
驚きながら、なまえに向き直ると、「だって」と小さく言い淀む。


「だって、付き合ってすぐエッチさせてくれって言われて」


「何て男だ。別れて正解だ」


付き合った途端に体を要求するとは、なんと不埒な男なんだろう。交際期間の短さに呆れ驚いたが、相手の男に問題があれば仕方が無い。
彼女の気まぐれな性格の所為でどの男とも続きしない。けれど、今回の破局の原因は彼女のわがままや気まぐれではない。


「でしょでしょう」


二人きりになる度に言うのよ。
ムード作れない男って別に嫌いじゃないけど、余裕が無くって必死なのも嫌いじゃあないけど…何だかもう無理だった。





「やっぱり、まだ処女を捧げられる相手はいないなぁ」


初めてが最低だと、後を引くって言うからね。


「……!」


突然遠い目をしてぽつりと呟くなまえに眼を剥く。散々、男で遊んでおいてまだ本当に子供のままだとは。
派手な男関係をして、まだそのしていなかったのか…ちゃんと貞操観念があるのはいい事だが。


「え、なにカイト…私がまだ処女だって事に驚いてるの。そんなに意外?」


驚く俺見てなまえも驚くと、俺の腕を放し、悲しそうに眉を下げた。


「へぇ…カイトは私の事、誰にでも足を開く尻軽女だと思ってたんだ」


なまえの行動は目を覆いたくなるものが多いが、ふしだらな女と嫌う事は無かった。
遊ばれた奴等には気の毒だが、結局の所、彼女は一度だって本気になった事がない。
彼女は本当にただ、純粋に付き合いを楽しんで、遊んでいるだけだ(尚更、性質は悪いが)。


「お前は俺の大切な幼馴染だ。俺はお前の事をそんな風に思った事なんて一度も無い。
幾ら、男遊びが酷かろうとも、それでもお前の事は好きだ。軽蔑している訳がない」


心外だ。確かにもう処女を他の男に捧げたとは思っていたが…自分の事をそんな風に軽んじような事を言ってはいけない。


「いつか、お前にも心から愛せる男が現れるはずだ」


早まって見誤った男に傷付けられるよりも、色んな男と付き合い相手を見極めるのもいいかもしれないな。


「本当?嬉しい、カイトが私の事嫌わないでくれて」


俺が強く言うとなまえはにっこりと笑って、俺に抱きついてきた。
甘えるように胸に頬を摺り寄せて、切なげな声を上げる。


「カイトだけだよ。私を叱ってくれるのも、こんな風に私が本当の事を言えるのは」


やがて、顔を上げて笑って、それから――





「じゃあ、今からカイトが私の新しい恋人ね。早速、今夜私に添い寝してちょうだいね」


「あぁ」


抱きつく彼女を受け止め、顔を上げる彼女の頭を撫でて、頷いて、二秒後。


「……え、あ…おい待て!」


違う。今のは違う!好きだと言ったのは幼馴染としてだ。もうお前の世話などごめんだ!


実はこれまでもなまえの恋人だった事があった。恋人と言っても、甘い関係ではない。
キスも無ければ、愛を確かめる言葉も無い。なまえが我が儘を言って、俺に甘えるだけだ。子供の頃のなまえの可愛い我が儘と、今のなまえの我が儘はとんでもなく違う。
それに彼女が家に泊りに来たら、ハルトを独占するわ、風呂場の脱衣所はべちょべちょに汚すわ、折角、夕食を作って食べさせてやっても好き嫌いして残して、挙句人の皿に横流しする始末。


「じゃあ、いつもの時間に迎えに来てね」


足取り軽く踵を返すなまえの背中はもう遠く、慌てて呼び掛けても振り向きもしないで片手を振り返す。
次はまた俺がポイ捨てされる男か。ため息を吐きながら、反対側を歩き出す。


「全く、仕方の無い奴だ……」





結局、君が好き
(カイトのそういうとこ大好きだから、他の人に本気になれないの)

悪女に成長したのは大体、カイト君が甘やかしすぎた所為。
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