小説




本当にもう、何が何だか。


それはもう、バケツを引っくり返した様な雨に霰の降りしきる最悪な天気でしたと、言いたい所ですが…生憎の晴天でした。
私の暮らす地域で、地域交流と言う名目で小規模ですが、デュエル大会が開催されました。
勿論、私もその参加者の一人でございました。どこの学校、クラスに一人はいる最弱デュエリストでございます。
予選一回戦で、そんな私の相手はハンドレスの鬼神、または死神と恐れられている鬼柳京介さんでした。
しかし、気落ちはしていませんでした。私の目的はこの大会で優勝する事でもなく、ただ度胸を付ける為のものでして。
強者と闘い、敗れる事は当たり前と言う心構えでした。


それなのにまぐれにも程がありますが、鬼柳さんに勝ちそうになり、身の程知らずにもよし、あと一息!と思った瞬間。
「満足出来るかもしれない…満足、満足」不気味にそう呟く鬼柳さんが怖くなって、サレンダーして逃げ出してしまった。





それから私の不運な日々が始まりました!
以来「お前なら、俺を満足させてくれるかもしれない」となんともまぁ、妖しげな台詞と共に付き纏われる事に。
以来、友人、家族、ご近所さんにまで鬼柳さんが彼氏などだと誤解され、淡い想いを寄せていた人には距離を置かれる羽目に。





ば、バッキャロウッ!!





私は真面目だけが、取り柄のつまらない女でしたが、好きな人に少しでも近づきたく、少しでも可愛いと、思われたく、
普通の女の子ならば、誰でも思う気持ちで、おしゃれや、立ち振る舞いを必死に勉強しました。
努力の末、そこそこ周りからも可愛くなったと言われる様になりました。知らない人からも告白をされる様にも。
そしてそして!憧れの彼とメールアドレスの交換にも成功しました。何でも、相手も私に好意を持っていると…!
お付き合いを申し込まれて、嬉しくて、涙を抑えきれずにその申し込みを受け様としたまさにその瞬間。


『俺はお前以外では満足出来ないらしい』


この男が現れ、全部ぶち壊してくれました。一言目、二言目には必ず満足満足満足!





「本当にいい加減にして下さい!鬼柳さん!」


母が勝手に私の部屋に通して、出された紅茶を静かに啜る男、この男、あの男、その男!
ちゃっかり、三杯もお代わりして!ここは喫茶店じゃないのですよ!こうなったら、お代を頂きます。


「しかし、俺はお前以外では満足出来ない」


「うわあああ!だから、その周りが聞いたら、誤解しそうな発言はやめて下さい!」


「本当の事だ。俺はお前以外ではまんぞk「はいはい!二回も言わなくていいですから」


天然なのですか、鬼柳さんは。それともわざとですか。生まれて初めて人を殴りたいと思いました。ええ、鬼柳さんをです。
でも、暴力はいけない事なので、鬼柳さんに会う度に私の手のひらには我慢と言う名の軽く爪の食い込んだ痕がいつも残っています。





「さぁ、今日こそはデュエルしてもらう」


ティーカップ片手にデュエルディスクを構える鬼柳さんに私は慌てて、その腕を掴んだ。
私の部屋でデュエルディスクを使ってデュエルをしたら大変な事になりますから!
人の迷惑を知らない、鬼柳さん。せめてテーブルでデュエルと言ってもくれない。本当に気の利かない。
それに、あなたお茶飲んだままデュエルする気ですか…!!


「あの!本当にあのデュエルは鬼柳さんの勝ちですよ。私が勝ちそうだなんて、何かの間違えで」


「あの時、俺はお前となら、満足出来ると感じていた。お前が逃げさえしなければ、きっと、俺は満足していたはずだ」


「だから、私デュエル凄い弱いんですってば。一回も勝った事が無くて!」


私とデュエルしても鬼柳さんは決して満足出来ません!
押し黙る鬼柳さんにこれでもう私のデュエルへの興味は削がれたであろうと、思いました。





「弱ければ、強くなればいいだけの話じゃないか」


大真面目な顔をして、鬼柳さんは腕を組んだまま私を見返した。
私には理解し難く、目を点にして鬼柳さんを見返すと、もう一度同じ言葉を。
パンが無ければ、お菓子を食べればいいじゃないの。一瞬そんな台詞が過ぎりました。


「え?」


「場数を踏めば、きっと強くなる」


「よし、俺がお前にデュエルの指導をしてやる。お前自身が納得出来る実力がつくまでな」


「いえ、結構で「そうと決まれば、まずタッグでも組んで信頼関係を深めようか」





何 故 、 そ う な る 。





「いやいや!深める信頼関係なんて求めてないですってば!」


私の必死の抗議も虚しく、鬼柳さんは私の腕を引っ掴むと、家を飛び出しました。
玄関先で母は手を振り、ご近所の奥さんは羨ましそうにこちらを見ていました。
私の、私の聞いて下さい……!!





無駄な抵抗だよ
(もう、やだこの人)(タッグ名を決めよう。脱!不満足ってのは(却下です却下ッ!!)
- BACK -


- ナノ -