小説




*姉と弟、近親相姦。










「なまえ、すきだよ。あいしてる」


舌足らずの子供の頃から、ずっと実の姉に言い続けた言葉。
それは子供ながら、俺の心からの言葉だった。昔ならばなまえも私もと笑顔で言い返してくれた。
たった一人の血の繋がった一つ上の姉。たった一つだけの違いなので姉さんと呼ばずに名前で呼んでいた。
なまえも姉扱いをして欲しとも言わなかったし、そんな素振りも無く、俺も姉と呼ぶより名前を呼んでいたかったので、ずっとそうしていた。


何処へ行くにも当たり前の様に手を繋いで、寂しい時もそうで無い時でもじゃれる様に抱きしめ合って、周りから恋人同士みたいと言われる事があった。
言われる度に悪い気はしなかったけれども、素直に喜べはしなかった。俺達は恋人ごっこは出来ても、本当の恋人になる事は出来ない。










「なまえ、好きだよ。愛してる」


心が、身体が、大人に近付くにつれ、その言葉を言う度になまえは笑うけれど、少し気まずそうな顔をする。
抱きしめても、いつまでも俺の腕の中には納まらず何かしら理由を付けてするりと逃げてしまう。


「遊星…もう子供じゃないんだから」


今日は「もうふざけないで」と優しく言って、俺の腕から去ろうとする。
行かないで、そんな風になまえの腕を掴み引き留めて、また抱きしめた。
今度は強く抱きしめて逃がさない。腕の中でなまえが小さく息を呑むのが分かる。


なまえが俺を嫌がるのは大人になって恥ずかしくなったから、人の目があるから、そんな理由ではない。
分かっているんだ。俺の言葉と俺の気持ちが家族に対するものでは無い事を。


「ふざけてない」


なまえと一緒にいれるなら、喜んでくれるなら何だってしたし、出来た。
なまえが他の男といる姿を見る度に、なまえの口から知らない男の名前が出る度に、嫉妬してなまえを困らせてしまった事もあった。
俺は弟なのに、なまえは姉なのに、世間一般から言えば恐ろしく異常な想いを抱いているのだ。





「ねぇ、遊星…いつかはお互い離れて生きていかないといけないんだよ」


家族でも、いくら仲が良くても、いつまでもずっと一緒と言う訳にはいかない。
いつかはそれぞれ別に人を好きになって、それぞれの生活を送る事になる。
聞き分けのない俺に諭す様な声を出す。


「分かって」


「分からない。どうして」


いつかはなまえは俺以外の男と恋をして、結婚して、子供を生む。
いつかは俺はなまえ以外の女と恋をして、結婚して、子供を産ませる。
自分が恐ろしいと、おかしいという自覚はちゃんとある。けれど、頭が心がどこかついていけない。
違う誰かとなんて、愛するなんて、そんな未来考えられない。想像出来ない――そんな事言わないでくれ。


「…だって、こんなの許されない」


そうだな、許されないな。けれど何故、そんな酷く切ない声で言う。それはなまえも俺と同じ気持ちだからじゃないのか。
そうか、なまえも俺と同じおかしいんだな。湧き上がる喜びは俺の恐れていた感情に拍車を掛ける。


「それでも、」


身体を少し離して、なまえを見下ろす。揺れる青い瞳は俺と同じ色で、誰が見ても血の繋がりがある。
何か言いたげななまえにキスをした。額でも頬でもなく、本当の恋人の様に唇に。異常でいい。許されなくてもいい。


「俺と一緒なら、なまえは怖くないだろう」


そっと、唇を離して、怯えた表情をするなまえの頬に流れる涙を指で拭った。





許されなくていい
(今は俺を見て)(昔の様に)


title:カカリア
- BACK -


- ナノ -