小説




僕の新しいご主人はなまえと言い、何から何まで平々凡々で頭の固い少女です。
僕はデュエルモンスターズ、略してDMと言うカードゲームの精霊で、不思議な力を持つ存在らしいのです。詳しくは僕にもよく分かりません。





ま、世の中そんなモノでしょう?





彼女は僕と出会い、その存在を目の当たりにしたと言うのに頑なにまで僕の存在を警戒し、信じ様としない。
未だに僕の存在は夢だなんて言う。眠り、目が覚めたら、僕はいつかは消えると…。
自分には見え、他の人間には見えない。きっと、自分は頭がおかしくなってしまったのかと、思っているでしょうね。


精霊を見れる人間は特別なんです。良い意味で。気に病む事なんて、何も無いのに。
早く諦めて、僕を認めて、楽になればいいのに若いのに本当にどうしようもなく頭が固いんですよね。


僕がスキンシップと、吸血行為をしようものならば、僕の本体のカードを曲げるだの折るだの喚いて、虚勢を張る。
そんな事出来もしないくせに(だって、僕ウルトラレアですよ。貧乏性のなまえさんがそんな事出来る訳が無いでしょ)。
だから、僕もついついなまえさんに意地悪をしたくなってしまうんです。





愛してるって好意を示す挨拶みたいなものでしょう。
女性は皆喜んでくれましたよ。……あぁ、今のは失言でした。何でもありません。
なまえさんの事好きですよ。えぇ、好きでも無い人にそんな事、挨拶でも、嘘でも言った事ありませんから。
好意のつもりで言ったのに、その言葉を囁いた時のなまえさんの表情と言ったら、なまえさんの表情と言ったら、





――とても悲しそうな顔。





そんな顔にさせた僕が悪いみたいじゃないですか。悲しませるつもりは毛頭無かったのに。
すぐに冗談交じりに血を下さいと言い掛けたらいつも通りの彼女に戻りました。










今現在。
なまえさんは僕を鍵付きの箱に閉じ込めたまま、出掛けてしまいました。
箱の蓋には六芒星が刻印されており、その六芒星には聖なる力が宿っているとか、宿っていないとか、何とか。
鍵なんて付いていても、六芒星の聖なる力と言うものが例えあったとしても、僕にはあまり関係ないんですがね。
なまえさんがこれで大丈夫だと、信じているので少しくらい安心させてあげる事にしました。
気にしていない様に装いながらもなまえさんは僕が"愛している"と、言った事を非常に気にしている様子でした。





免疫ないんですね。まぁ、見るからにそうですが。あぁ、可哀想な僕。全く信じてもらえていないとは。
真っ暗な箱は狭くて考え事をするには打って付で、思い出したくない事や考えたくない事まで脳裏を過ぎります。


例えば、前の僕のマスター。
前のマスターには嫌な思い出しかありませんね。口にするのも憚られます。本当に。
まだまだありますが、全てを明かすのは僕の主義に反しますので、これくらい。





なまえさんに何度か、言われました。僕の性格は酷く捻じ曲がっていると。
僕はそうは思いませんけどね?爽快なくらいに真っ直ぐですよ。ただ、少し秘密主義なだけで。


でも、信頼を得られていないと言う事はそうなんでしょうね。なまえさんは僕の事を少し怖がっている節があります。
何で怖いんでしょうね。こんなに僕はチャーミングなのに。アンデットと言うものを少し誤解してるじゃないでしょうか。





ならばいっその事ですよ。
なまえさんの言う通り、捻じ曲がった性格でも、演じてみましょうか。
平常を装って愛してると言って、彼女を傷つけて。残酷なまでの吸血とか如何でしょうか。





やはり、考えているだけにしておきます。きっと、虚しくなるだけですから。
それに――僕の存在はなまえさんの信じているモノを全て、裏切っている気がしますし。
相容れない、んですかね。





彼女の恋愛対象(信じるモノ)は目に見えて、確かに触れれるモノ。


僕は彼女に見える。僕は彼女に触れれる。
彼女から、僕は見える。だけど、彼女からは僕に触れられない。





裏切って傷つけてばかりなんだ
(この時程、精霊でいる事を儚んだ事はありません)
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