小説




「恋がしたいんだ」


深刻な顔をして何を言うかと思えば、本当に突然何の告白、どうしたの。
見返す零児は表情を崩さすもう一度「恋がしたい」と言う。


「れ、零児、疲れてるの、ねぇ、疲れてる。それとも嫌な事でもあったんでしょう」


辛い現実から逃げたくてそんな事を…。
理由はともかくこんなぶっ飛んだ事を言う零児が友人として心配だ。


「心外だ。私とて特殊な肩書きを除けは健全な男子、色恋に興味だってある」


あぁ、所謂発情「なまえ、今何を考えていた」「いや、別に」
心労からくる現実逃避じゃなくて、ほっとしたけどさ。


「ま、まあ今まで会社が大変で恋愛どころでは無かったからね。で?気になる人でも出来たの」


私の言葉に零児は出会いがないと首を振り答える。
若くして会社経営者、頭脳明晰、プロデュエリスト、美形、これだけのスペックを持っていて何を言っているんだと思ったが彼は重々しい息を吐く。
え、本当に真剣に悩んでんの…。





「だ、大企業のご令嬢とかは?綺麗どころよりどりみどり!あちらさんは是非ともお近づきになりたいはずだよ」


「私ではなく会社目当ての輩だ」


婚約話の一つや二つあるはずだが、下心みえみえの人間は問題外らしい。
そんな事ない人だっていると思うんだけどな。


「会社の人は?社長と部下、身分違いの恋愛で燃え上がる事間違いなし!零児の事理解してついて来てくれている人達ばかりだし」


「信頼する部下に恋愛を強制している様で、気が引ける」


部下を大事にするが故の対象外らしい。


「ネット恋愛!本名も身分も明かさずにありのままのあなたを愛してくれる人がきっといるはず」


「本名、経歴、そして性別も偽れ、金銭を要求される事もありうる。まともな恋愛は望めない」


ネットの恐ろしさを逆に説かれた。





「んーじゃあさ、零児の好みのタイプは?外見とか性格とか、相手に求めるものは」


人生経験の浅い私が思いつく限りの出会いでは零児の望む相手は見つけられそうにない。
会社使ってお見合いパーティー主催した方が早いんじゃないのかと思ったが、出会いは運命的がいいらしい。全くああ言えばこう言うとんだロマンチストだな。
違う方面から相手を探せる様に肝心の好みのタイプについて聞くと、


「外見にこだわりは無い。相手に求めるものか…思いやりの心がある優しい女性なら他には何も」


あー自分に無いものを相手に求めるタイプか。
「私にだって思いやりの心と優しさくらいある」私の顔色を読んでむっとしながら零児は言う。
目的の為なら手段を選ばない男のセリフとは到底思えない。


「まあまあ…っ!えっと百歩譲ってその条件に合う女性が現れたとしよう。でも、だからって零児がその人に恋をするとは限らないじゃない」


鋭さを増す零児の視線に耐え切れず、咄嗟に思いつく言葉を言う。
私の言葉に零児はほう、と考えるように耳を傾ける。


「もしかしたら、条件に上げた女性と真逆の女性に恋をするかもしれない」


「例えば?」


「えー例えば、問題外としたご令嬢、対象外の部下、姿見えぬ恐ろしきネットの住民…とか。
恋ってしようと思っても、出来ない時は出来ないし、でも、恋をしてしまったらその時は――あっと言う間に落ちちゃうんだよ」


条件とか好みだとか、色々言ってもさ、恋に落ちてしまえば、そんな事全部どうでもよくなっちゃうんだよ。
だからそんなに焦らなくてもいいんじゃないのと、私の言葉に零児が目を見張り、そして、





「――落ちた」


「は」


「ときめいた。なまえ、たった今私は恋に落ちたよ」





恋に落としました
(君の私を想っての言葉に感激した)(い、いや私は断じてそんなつもりで言ったんじゃ…!)
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