小説




「俺なまえの事、好きかもしれない」


「うん」


突然、遊矢君が私にぽつりと言う。
あんまり遊矢君がさり気無く言うから、普通に相槌を打って数秒してから私ははっとする。


「(好き、かもしれない?)」


彼のその言葉は疑問系なので、それ程真剣なものではないと判断するのに時間は掛からなかった。
遊矢君は家が近所で、デュエル塾も一緒の、人を笑顔にさせるのが大好きでよく冗談を言う子だけど…意味もなく言うはずない、はず。
…はっ!まさか、私が辛気臭い顔してるから、笑わせ様としてくれて…!


「あーうんうん。私も遊矢君の事好きだよ」


弟みたいでさ。
辛気臭い顔は生まれつきだから。
気恥ずかしさに一瞬の間に受けそうになった事を悟られない様に明るく返して、遊矢君を追い越す。





「ねぇ」


「え、わっ」


声を掛けられ振り向く前に強く腕を後ろに引かれ、バランスを大きく崩す。
尻餅をつくかもとぎゅっと目を瞑って数秒、衝撃は特にない。
そぉっと目を開けると、遊矢君の腕に抱き留められていた。
ぎゅっとされて、この時見上げた遊矢君の表情と言ったら――


「…弟みたいな奴にこんな事されても」


そんな風に笑えますか?
そっと囁かれ、私を今抱き留めているのは本当に遊矢君なのかと瞳を瞬かせる。
エンターティナーの様な余裕があって、そして…艶っぽい?そんな大人っぽい表情。


とどめ言わんばかりに微笑みながら「好きなんです」とまた言われて私は本格的にフリーズした。
再起動するにはまだまだ時間が掛かりそう。





あなたのこと好きになったみたいです
(ねぇ、俺の気持ち分かった?)(あーうーうん…うん?)(もっかい言おうか)
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