御手杵が主を仕舞いたい時
目の前で飛び切りめかし込んだ主がくるりと一回転する。
「似合うか」なんて聞かれて、俺じゃなくて加州とか光忠に聞けばいいのにと思う前に、どうしてだか、そのまま誰かに連れて行かれるんじゃないかと思ってしまった。
「駄目」
俺の発した一言に軽く眼を剥く主。
考えるよりも先に口が動いてしまっていた。はっとして両手で口を抑えて主を見る。
似合ってないんじゃない。
切に行くのが面倒だと伸ばし放題の髪は綺麗にセットされ、出かけないしと化粧っけのない顔はフルメイク、爪紅はすぐはげるからと言っていた爪はキラキラのピッカピカで、着物は窮屈だと嫌がっていたのに雪輪文様の訪問着で。
俺と同じ服装なんて着れればいいの主が、急に身綺麗にしたから、驚いて咄嗟にそんな言葉出てしまった。
「あーやっぱり、冒険なんてしないで無難なスーツとかワンピースにすれば良かった」
俺の言葉にショックを受けると言うよりは「あっちかぁ」と勝手に納得して、着替えてくるね、と踵を返す主の両肩を掴んで引き留める。
「ちょっちが、違うんだって主っ」
「御手杵に聞いて良かった。似合ってない恰好で同窓会に行って笑われる所だった。ありがとう」
綺麗だ、似合ってるなんて今更言っても、主は全く聞く耳を持ってくれない。
「俺は!主がお姫様みたいに見えたから!!」
「綺麗にして、誰かに連れて行かれるんじゃないかって思って、だから、駄目って言っちゃったんだけど…似合ってないわけじゃない、って」
こっちが正直に言っているというのに、主の顔がぴくぴくと震えて、噴き出しそうな顔をするものだから、顔がカッと熱くなった。
「あーもぉ!嘘じゃないって、ほんとだって!!」
「分かった、分かったって…この歳になって、お、お姫様みたいって言われると思って、なかったからっぶふ」
「あんたまだ若いだろう、似合ってるよぉ」
そりゃあ御手杵からしたらね、と主は笑っている。俺が一杯一杯になって大げさに言ってると思っているようだ。
俺は拗ねて主の両肩に手を乗せたまま、顔を背けた。
「ありがとうね」
「(――このまま仕舞っちまうぞ)」
呑気に笑う主を少し恨めしく思った。
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