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分からない分身の真月君

僕は人からいい奴だとか、優しいとか、そう言われる度にお腹底が熱くなって、胸の奥から苦いものが這い上がって、とても苦しくなるんです。
僕は他人が思っている様な人間じゃないって事を自分自身が一番よくわかっているからです。僕はそんなお綺麗な人間ではないのです。
僕は――人の心が分からない、心の無いお化けです。

仲良しな友達が出来ても、彼らは何が楽しいのか、何を悲しんでいるのかさっぱり分からず、人と共感する事が出来ないのです。
人と同じでない事は恐怖です。哀れなお化けの正体が知られたら最後、人々に爪弾きにされるでしょう。
だから、僕は楽しくもないのに、悲しくもない僕はまるであなた達と同じですと嘘を吐く。
必死に人の真似ごとをして、頑張っているフリをして、道化を演じ続けるのです。

「零君!」

僕の名前を呼ぶ可愛いあの人ならば、僕のこの空っぽで、すきま風の通る心を埋めてくれるかもしれません。
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