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煉獄杏寿郎と毒を食らう

「なまえの飯が!今日もうまい!」

深夜、ひっそりとした時間帯には似つかわしくない活発な大声。
これでも小さい方だから、驚きだ。

「褒めても下さっても、明日の朝にさつまいもは出ませんからね」

「よもや、よもや!」

口癖と共に豪快に笑い、食事を終えられた。
空の器達を片付け、熱いお茶を用意する。

「お熱いので、」

「君の作った飯を毎日食べられたら、どんなにいいだろうか」

湯飲みを差し出す指先に、男の節くれた指が絡みついてくる。

「(色男め)」

藤の家紋の屋敷は他にも沢山あり、ここはその中のたった一つ。
お仕事次第ではどこそこにでも赴く方。
遊びたいのなら花街へでも行ってしまえばいいのに。

「杏寿郎様はドクゼリ、ドクウツギ、トリカブトの共通点をご存知でございますか」

「うむ、毒がある事か?毎年誤って食して亡くなる者が出ているな」

「流石でございます――先程の山菜のお浸し、美味しゅうございましたでしょう」

顔を上げると、杏寿郎様の大きな目がぱちりと見開かれる。
面白い程動じられ、思わず笑いがこみ上げてしまう。嫌な女でしょう、私。
そんな私を怒るどころか、杏寿郎様は一緒に笑い私の両肩を優しく押す。
金の髪が降り掛かり頬を撫でる。

「そうだろう。俺が君と食そうと採ってきたものだからな」

「特別美味しかったな、なまえ?」

腹の上を大きな手が這う。
私の愚かな企みをすぐさま見抜き、見上げる杏寿郎様は熱っぽい眼差しで不敵な笑みを浮かべていた。

「えぇ、とっても」

今は毒と間違える山菜の季節でもないし、杏寿郎様は山菜を採りにも行ってはいない。
こんな女と遊びたがるなんて、物好きな人。
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