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鶯丸が読んだおとぎ話

「昔読んだ本を思い出した」

業務に区切りが付き、執務室で近侍とのんびりお茶を飲んでいると、本日の近侍である鶯丸が何の前触れもなくぽつりと言う。
よく大包平の話になる事はしょっちゅうあるので、今回もそこへと繋がっていくのかと続きの言葉を待った。

「あるおとぎ話なんだが」

顕現したての頃に読んだもので、その時の俺には理解出来ない内容だったが、月日が経った今なら、理解出来るかと思い、昨日読み返してみたんだ。

「どうでしたか」

「ありえない嘘みたいな話だと再び感じたが、」

「昨日の俺は――人の身を得て、他の刀達…そして主と生きていく中で…そんな奇跡みたいなおとぎ話も悪くないな、と」

手元の湯飲みに視線を落としていた鶯丸は優しい声で答えた。
一体、どんな素敵なおとぎ話を読んだのだろう。興味本位で聞いてみる。

「一般家庭に生まれ育った健気なヒロインの相手役の男が現代では絶滅危惧種並みに遭遇率の低いシークやヨーロッパの王族「それ、ハーレクイン小説!!」

確かに、設定がおとぎ話じみてるけど!!
王道のラブロマンス小説じゃないですか、鶯丸そんなの読むんだ。

「そうそんなジャンルだったな」とのんびり笑う鶯丸に私はツッコミ崩れた佇まいを正し業務机に向き直った。

「主のタブレットの閲覧履歴にあったやつだ」

ひえ、と喉から悲鳴が漏れそうになった、いや実際漏れていたのかもしれない。
まさか、顕現したての刀にタブレットの閲覧履歴を見られていたなんて。鶯丸顕現当初は忙しさからくるストレスやらで現実逃避の一環として、普段絶対読まない小説を読んで「素敵な男性にこんな事言われたい、されたい」等と思っていたほんの一時期があったが、「主はああ言うのが好きなんだろう」と耳元に声が降ってきた。ああああ、ちょっと待って!本当にやめて!恥ずかしい!!

「“俺達”も中々王道というやつじゃないか」

彼は私の両肩に手を沿え、振り向けない私にそう小さく呟いた。
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