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天上院吹雪と秘密

「皆には内緒だよ」

そう言っていつも、私の額や顔にかかる長い前髪を指で優しく払いのけてくれる。
吹雪さんに触れられた所が熱を持って、じわじわと熱に侵されて少しずつ腐っていく気がする。

吹雪さんを知る人なら彼が明るくて優しいフェミニストだと皆が分かってる。
だから、いつも俯いて一人でいた私にも声を掛けてくれたり、一緒にいてくれたりする。優しいから。

寂しくて、泣いている私を時々抱きしめてくれたり、額や頬にキスをくれる。
そんな吹雪さんといると…嬉しいと感じるけれど、同時に自分が酷く惨めに思える。

だって、これは内緒だから、これは優しさだから、これは同情だから。
秘密が秘密でなくなったら、きっと吹雪さんは私に声も掛けないし、目も合わせてくれない。

でも一人が嫌で、同情を甘んじて受け、自分を恥じている。
腐った生き物は腐敗して悪臭をまき散らして、形を保てずに崩れていく。
そんな風になってまで、私は吹雪さんにすがるの?

「そんなのいや」

私の小さな悲鳴の意味を知ってか、知らずかそれをかき消す様に吹雪さんは唇でそっと私の口を塞いだ。

ほら、また私の一部が腐って崩れ落ちた。
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