奇人変人変態紳士

002

 陶器特有の音を響かせ、水切り籠に置く。ちょうどよく冷めたご飯を見て、三つの弁当箱に蓋をした。それぞれを取り違えないように袋と包みを入れたところで、声をかけられる。

「ねぇ、ちょっと話聞いてもらっていいかな」
「時間あればね」

 今日は寝坊したんだからないだろう、と暗に示せば、彼女は「着替えながら、で充分な長さだから」と言い置いて許可も待たずに話し出した。傲慢ともとれる態度なので、他人にはあまりしないようにと言い含めておこう。

「美濃部先輩って知ってる?」

 その一言に、遠くから見た華奢な背中を思い出す。横顔を思い出すが、この人は性別が男で間違いないんだよなと確認したくなるほど綺麗だったように思う。

「そうそう。まさに性別間違えてきましたの典型例なんだけどさ」
「典型例って…」
「ていうか、驚いたことに性格も性別間違えてるとしか思えないんだよねぇ」

 へぇ、と軽く相槌を打っておく。軽いね、となんだか呆れた声が続きを言った。抱きたい、抱かれたいランキングで上位者だったことと、頻繁に聞く名前だったために覚えていたのだ。なので、正直、その名前が出てきて首を傾げるのは妥当ではなかろうか。

「うーん、京ちゃんってわりと抜けてるよねぇ。役付きと有名人の顔と名前は一致させてるけど」
「そもそも付き合う機会がなかったんだから、それ以上を知らなくて当然だろうが」
「いやいやぁ、情報は大事だよ? これから戦場に赴くんだしさぁ」

 そんな予定はどこにもない。きちんとネクタイを結び終わったところで、セイとしての準備を終えている彼女のもとへ行く。話がそれだけなら、出発したかった。

「ちょっと待った。京ちゃんに関係してることなんだけど」

 ぞくりと肩が震えた。嫌な予感は外れないという定石を、今は外してほしいなと思いつつ振り返る。

 セイは、にんまりと微笑んで言い放った。

「この人、生徒会長の親衛隊隊長兼全親衛隊統括隊長だからね」

 生徒会長の親衛隊隊長と言えば、空恐ろしい噂ばかりの御仁だ。一度だけ、偶然が重なって手に入れてしまった噂の詳細が脳裏を巡り始める。
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