協力者へのご褒美

004

 要約すれば、王子は乙男だった。一昔前に流行った某乙女思考男子。好きな物は、きらきらふわふわしたもの、ピンク、または少女マンガ。好きな人にどう思われているのかが気になって仕方なくて、一挙手一投足を気にかける上に、その人のためにいろいろやりたい、捧げたいと思うタイプ。いわゆる良妻賢母の男バージョン。セイが興奮気味に言っていた単語の羅列を思いだして、少し溜息をつく。

「桜井くん…話聞いてた?」

 目の前の金髪美形が、情けなく眉を八の字にして瞳を潤ませていた。子犬にも思える行動だが、手には裁縫道具セット。先ほど淹れてもらった素晴らしい味わいの紅茶。ティーカップは、上品で小さな桜模様が薄くあしらわれている、ソーサーの下にあるテーブルクロスも細かなレースで飾り立てられ、ソファの向こう側に大きなかわいらしいクマのぬいぐるみが垣間見えていた。聞きしに勝る乙女具合。

「聞いてましたよ、会計さま」
「あ、聞いてない! 俺は、滝本良平って名前だからちゃんと名前で呼んでって言ったのに…」

 さらに垂れ下がる眉。豪奢な金髪も、これではどこか滑稽に見える。仕方なしに苗字を呼べば、花が綻んだような笑顔を浮かべていた。

「よかったぁ。それでね、料理、なんだけど…」

 ふたたび、手の中の布を手慰みにし始め、頬を染めながらぽつりぽつり話し始めた。うん、性差を超えた美形だからこそ許される仕草だ。

「好きな人に作りたいんだぁ。おいしいって言ってもらえるような、あったかい料理」

 そもそも、その最初の発言で俺はついていけない。好きな人。あれ、会計って好きな人いたんだ。親衛隊公認、なんだろうな。あれだけ協力的なんだから。えっさほいさと妙な掛け声で俵運びしてくれたチワワたちの姿を思いだしながら、滝本の口から出てくる好きな人への惚気や料理、趣味への思いを右から左へ聞き流していた。この紅茶、どんな茶葉を使ってるんだろう。本当においしい。

「って、また聞いてない!」
「はいはい。要するに、料理を教えればいいんだろ。自分の家の専属シェフに教わればいいのに」
「…僕は、君に教わりたいんだよ。君の料理食べて、すっごくおふくろの味っていうのかな、あったかい味がしたから」

 驚いて滝本の目を見れば、それは真剣な色を湛えていた。先ほどから垂れ流していた言葉は、本当に彼の強い思いだったのか。
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