ハロウィンシリーズ
〜物語・運命編〜




 1日と言うものは中々長いものだ。バスケットに入ったパンプキンパイを持ち歩きつつ、ギリシャへ向かったものの、目的の人物はそこにはいなかった。その代わりに彼らの兄だ、という奴がいたので盛大にからかってやったのだ。双子にあまり似ていないそのお兄様は今頃必死になって顔を洗っていることだろう。

 菓子を貰い、悪戯をするために各地を回るのは面白い。なにせハロウィンだ、平時見られない突拍子のない格好をしたものも多い。好奇心に時間の許す限り徘徊するつもりだが、どうしても近寄れない場所がある。

 第一にイベリア半島。第二に冥府だ。

 焔の悪魔と少女は絶対に菓子の食べさせ合いをしている。夫婦の隙間に入るのに気が引けるわけではなく、あの2人の出す甘さに耐えられそうもない。人妻は好きだが、あの少女に胸はない。流浪の三姉妹辺りは中々のポテンシャルをしているのだが、その名の通り、彼女達の居場所は定まらないから出会える可能性も低い。それに私はあの老預言者が得意ではないのだ。

 そして冥府。わざわざエセV系に会いに行く意味が解らない。冥府の物など食べた瞬間にアウトなのは目に見えている上に、まず川を渡るリスクが高すぎる。冥王はきっと悪戯に対して素晴らしい反応を示してくれるのだろうが、周囲の低能でもそれは事足りるのだ。

 「そうなるとあの城に行くしかないな…」

 先程、レオンティウスの家臣から貰った菓子を頬張りながら呟く。ハルヴァというギリシャでも良く食べられるものらしい。悪戯される前に押し付けてきたから有り難くいただいておいたが、彼は私の言ったことを聞いていなかったらしい。菓子の分、水性で手を打った私はなんと慈悲深いのだろう。

 朝と夜の狭間に建つ黄昏のテラスに降りる。いつ見ても隅々まで手入れされているために塵1つなかった。そういえばここには双子の少女人形がいる。胸が大きいわけではないが、声を揃えて主に仕える礼儀正しい双子は実に可愛らしいのだ。

 「メルヒェンから連絡貰ってたからね、そろそろかとは思ったけど、何でしっかり玄関から入ってきてくれないかな…」

 「テラスから入って来られるものですから、てっきり侵入者かと勘違いしてしまいましたわ」

 室内から現れたイヴェールと双子の姫君は臨戦体勢を解く。イヴェールは細身の剣、ヴィオレットとオルタンスはそれぞれ箒とデッキブラシを構えていた。普通に考えれば剣の方が怖いが、双子が持つと箒も凶器に見えてくるから不思議である。主を守るための強さに賛辞を送るべきか、それとも箒すら武器に変える彼女達に戦くべきなのか。

 「ハロウィンの日は何かと治安が悪くなりがちですからね。用心のためとは言え失礼致しました」

 「いや、元はと言えば私がテラスから入ってきたのが悪いのだ。要らぬ仕事を取らせて済まなかった」

 「で、何でイドはわざわざ面倒な思いしてテラスからうちに?」

 飽きれ顔でイヴェールが問えば、オルタンスがむっとした表情になる。

 「ムシュー、イドルフリート様はハロウィンの雰囲気を大切になさっているのですわ。ヴァンパイアが玄関から、だなんてイメージが崩れますもの。金髪の高貴なヴァンパイアがテラスからいらっしゃるなんて素敵ではございませんか?」

 「嬉しい事を言ってくれるお姫様だ。ハロウィンのお菓子に、その深紅の血を頂いても?」

 双子の身長に合わせて膝を付き、恭しく手を取ってみせればオルタンスは仄かに頬を赤らめる。その純真さに自分の汚い一面が浮き上がり、複雑な気分になる。

 「オルタンスは何故かイドのことを気に入ってるからね…。中身はあんななのにさ」

 「イドルフリートさんの悪口はいけませんわ、ムシュー。いくらムシューといえども、私もオルタンスも黙ってはいませんからね。今日のためのタルト、全て他の人に差し上げることに致しましょうか?」

 「僕の味方してくれるはこの空間に1人しかいないんだね」

 「1人?私達以外に誰かいるのかい?」

 溜息を付きながらイヴェールは室内のカーテンを示す。ハロウィンに合わせて紫の布にオレンジのタッセルに変わったそれは不自然に膨らんでいた。もぞもぞと布が手繰られて顔を見せたのは、銀と紫の髪をした何かだった。

 「俺がお前の味方だと思ったら大間違いだからな、このオルヴィオール」

 「だからその名前止めてってば。僕だって望んでこの服着てないんだからね。姫君達の服は可愛いからいいんだけど、このツートン、どこぞの王子みたいで」

 「それが俺のこの格好の言い訳になると思ってるのか!?」

 飛び出したエレフは全身白い何かが巻き付いていた。何気に朱が散っているところから、それがミイラ男である、ということは予測されるのだが。

 「トイレットペーパーか?それは」

 「うわああこっち見るな、イド!俺は死ぬほど恥ずかしいんだよ!何でトイレットペーパー?アルカディアから逃げてきた意味がないんだよ全くもう!」

 牙を剥きながらイヴェール、いや、オルヴィオールに飛び掛かろうとするエレフ。迫力はあるのだが、何せ巻き付いている包帯代わりがトイレットペーパーだ。紫の狼の面影もない。

 「エレフさんは妹のミーシャさんと兄のレオンさんから逃げていらしたのですわ」

 「何でも黒猫か、ふさふさの狼か、兎かを強要されたらしいのです」

 「それで、ここに来たらトイレットペーパー男にされた、という訳か」

 「勿体ないことをしましたわ…エレフさんが逃げてくるとわかっていたなら私達も衣装を用意しましたのに」

 暑そうなコートを着て、低い位置で髪を纏めてリボンで留めた双子がキャンディーを差し出してくる。それを舐めつつ、トイレットペーパーと本日2人目の女装との攻防を眺め、私は双子に問う。

 「姫君達、もしエレフに着せるとするならば?」

 「ルキアさんですね」

 「では私は、ツインテールにしてみたいのでぶらん子さんで」

 ついには剣まで取り出して戦いだした2人である。ハロウィンとは、乱闘を起こす日ではないし、女装する日ではないのだ。もしかして私の見識が間違っているのだろうか。メルヒェンのところ…よりも、船に帰りたくなって来ざるを得ない。











滑り込みハロウィンでした
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