冬闇と狼+白メル




何と変わった組み合わせだろう。僕と彼だけならば何ら変わりはない風景となるのだが、そこに2人加わると不思議なものになった。

「変わった組み合わせだって思ってるだろ?」

「よく分かりましたね、エレフさん」

「俺だって同じこと考えてたからな。と言ってもお前のことが嫌いな訳じゃない。まあ俺たち2人ってのもなかなか新鮮でいいんじゃないか?」

僕達の前ではメルヒェンとイヴェールさんがかれこれ1時間ほどお菓子を食べ続けていた。山積みになっていたドーナツやケーキの類いは全く減っていない。見かけによらず大食な2人が食べているのに減る気配を見せない山に僕は胃痛すら感じた。

「あの2人の胃袋、全くならないのか?いずれこちらにも影響がありそうで怖い」

「まあ何か食べてるだけなら可愛らしいものじゃないですか」

「…確かにな」

エレフさんと顔を見合わせて溜息をつく。目も眉も下がり気味なのはお互いだろう。それくらいにあの2人には振り回されているのだ。

「俺たち3人でよく色んなことしてるのは知ってるよな。まあ大体はどこかで喋ってるだけだが…その時の話なんだけどな」




「今日はまた一段と寒いね。冬は雪も降るし、イベントも沢山あって嫌いじゃないけど…もう少し暖かければいいのに」

「僕は冬って好きだよ。だってイヴェールの季節でしょ?」

腕に自分を抱いて震えるイヴェールと微笑みながら雪のなかを跳ねるメルヒェン。さり気なく好意を見せていることにイヴェールは反応すらしない。それはどれだけ普段から2人の仲が良いかを如実に伝えてくれる。面白いほどに俺は外野だった。

「僕の季節って言っても名前だけだけどね。どちらかというと日差しが気持ちいい春とか、食べ物の美味しい秋とか…」

「でもやっぱり、僕には特別な季節だよ。それにね、寒いのは1人でいるからなんだ」

そういうとメルヒェンは悴むイヴェールの手を取った。降りゆく雪と同化する白い手は優しくそれを包む。

「2人いればこうやって暖かくなれるでしょ?僕には血が通ってないから駄目だけど、風を防ぐくらいなら出来るんだ。イヴェールの寒さは僕が掻き消してあげるからさ、冬を嫌いにならないで」

目を瞑り、そっと呟く姿は雪と太陽光の効果も重なって光って見えた。ふわりと舞う雪は今にも集まって、メルヒェンの背に翼を作ってしまうのではないか、と思うほどに彼の行動は優しいものだった。

ところでイヴェール、寒いのなら手袋なりマフラーなりをすればいいじゃないか。と俺は1人で突っ込みを入れる。それを口に出さなかったのは、イヴェールがほんの少し赤くなって笑っていたからだ。周りが白いから赤くなっているのが尚更目立つ。

「うん。メルヒェン、君の手は全然冷たくないよ。寧ろ暖か過ぎるくらい。だからこの暖かさと幸せをお裾分け」

メルヒェンの手をすり抜け、いつの間にかイヴェールの腕は大きく広げられている。一瞬悪戯っぽい笑みを見せ、そして豪快にメルヒェンに抱きついた。

「こうすればもっと暖かいよ」

相当な力で締め付けているのだろう、メルヒェンは何となく苦しそうだ。イヴェールの背を叩いて主張しているが、行動ほど嫌がっているわけではなさそうだ。

その証拠にひかり、あったかいね、なんて口が動いている。もう少し力を抜いてやらないとメルヒェンは本当に潰されそうだが、俺の存在を丸っと無視してくれていたので、助けてなんてやらないことにした。




 「そんな、可愛いものじゃないですか」

 丸太に腰掛けもの凄い猫背になりながら話した俺にそんな言葉を掛けなくてもいいじゃないか。なんて思ったが、そう言ったメルツは俺以上にげんなりしている。これは話を聞いてやるのが年長者の努め、というところだろう。

 「僕なんてお互いをこれでもか、と褒めちぎりあってるところはしょっちゅう見せられますし。普通に歩けばいいのに指を恋人顔負けなほど綺麗に絡めて散歩していたり…そういえばイヴェールさん、割と頻繁にこちらへ泊まりに来ているようなんです。この前朝から用事があって家に行ったら、イヴェールさんがメルヒェンを抱き枕にしてましたからね。それを指摘したら『ベッドが1つしかなかったから一緒に寝てたんだよ。ここは寒いし、丁度いいでしょ?』なんて言ってきましたからね!」

 まくし立てられればこちらは大人しく聞く他なかった。雰囲気的にどうやらまだ沢山の行いがあるらしい。一先ず俺は息切れ切れなメルツの背中を撫でてやった。

 深紅の綺麗な瞳は今では死んだ魚よりも死んだ目をしている。その目線の先には問題の2人が未だ仲良くケーキを食べていた、いや、貪っていた。

 話を聞いていれば、2人は決して周囲に迷惑をかけているわけではない。最もそれは実体的なものであり、精神面では負担をかけられてはいるのだが。とにかく、メルツは2人を嫌っているわけではない。心の底から呆れ返っていて、心のどこかで微笑ましく思っているのだ。

 そんな俺達を余所に2人はというと、メルヒェンはドーナツにかぶりついてクリームを頬につける、という典型的なことをしていた。そしてイヴェールはそれを雨水が大地に染み込むよりもしなやか且つ自然に指で掬いとり、口へ含んでしまう。

 メルヒェン、素直に礼を言うんじゃない。イヴェール、この空間には俺達がいることを忘れるな。

 「一体どこのカップルですか。エレフさん、僕だんだん目眩がしてきました」

 「安心しろ、俺もだから」

 何事もなかったように今度はタルトの食べさせ合いを始めた2人。仲が良いのはいいことだが、もう少し周りを見てほしい。そう思わずにはいられなかった。

















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