学ミラ
学校とは思えない豪奢な門に人が群がっている。屋上から見下ろせば、蠢く人の波は中々気持ちの悪いものだった。皆が一同に同じ服を纏い、入学を祝う。そこまでめでたいものなのか、と俺は疑問に思った。
「せっかく桜が綺麗だといいますのに…あの人混みのお陰で美しさも半減です」
フェンスにもたれ掛かり、地を見下ろしてオルフは毒づく。眉間に皺まで寄せて、見せる表情はまさに嫌悪のものだった。
溜息をついて、忌ま忌ましそうに新入生を睨むその横顔すら気品に溢れている。本当にその性格さえ直れば欠片の文句もないというのに、何て勿体ない奴だ。最も毒を吐かないオルフなんてテストで満点を取るオリオン並に気持ち悪いだろうが。
「でも懐かしいな。1年前は俺達もあの中にいたんだぞ。もしかしたら同じように誰かに邪魔扱いされていたかもしれない」
「閣下を邪魔だと思うなんて失礼極まりないですね。邪魔、と言えば去年の入学式の低能生徒会長です」
「あぁ、レオンか…」
確かにあれは今思い出しても恥ずかしい。眩しいほど白い学ランに訳の解らない羽飾り、おまけに橙のマントに帯剣という格好で壇上に現れたのだ。身内だなんて認めたくない、と心の底から思ったものだ。
「理解不能な格好で長々と演説してくれやがりましたからね。しかも片言の薄気味悪い校長の後、というコンボに私は眩暈すら覚えました」
「俺は泣きそうだったな。周りは面白がってたが、あんなのと血が繋がってると考えただけで…」
悪い奴ではない、そんなことは解っている。不思議なことに頭も悪くなく、料理も上手い。信じられないくらいにお人よしで、周囲からの信頼も厚い。
ここまでレオンを褒めておいて1つ疑問が浮かんだ。何故俺はレオンが気に入らないのだろう。
「そういえば今年もあの阿呆校長と間抜けた生徒会長の馬鹿馬鹿しい演説があるんでしたね。新入生も入学早々気の毒です」
オルフが呆れながら講堂に目を向けた瞬間、硝子の割れる音と爆竹の弾けるような音がした。同時に悲鳴、そして歓声がどっと襲い掛かって来る。
「入学おめでとう、新入生の諸君!俺はオリオン!この学校一のイケてる不良だぜ!」
馬鹿丸出しの自己主張が割れんばかりの音量で学校内に響き渡る。俺とオルフはほんの少しの沈黙をおいて、屋上から駆け出した。
「あの単細胞…どれだけ私達を辱めれば気が済むのでしょうか。これは1回本気で絞めなければ気が済みません」
「よし、オルフ。俺が赦すからあの馬鹿全力で殴ってやれ」
「私はか弱いので撲るのは少々難しいかと。変わりにコンパスとカッターナイフでめった刺しに致しましょう」
オルフの笑顔と言動と滲み出る苛立ちが怖い。流石にオリオンに悪いことをしてしまったか、とも思ったが、すぐに頭から振り払う。大体、あいつは1回真剣に痛い目を見なければならないような行動ばかり起こすのだ。
未だ続けられているオリオンの低俗な演説、不機嫌最高潮なオルフとこの後とばっちりを食らうであろうシリウス。新学期早々なんて騒々しいのだろう。
あぁ、今年も1年を楽しく過ごせそうだ。