王→闇
いつも僕が抱き着いたら逃げられてしまう。例えこの腕の中に捕らえても、暴れられれば容易に檻の枷は外れてしまう。遥々訪ねていっても嫌な顔をされるし、僕の前で素を出してくれることもない。
それでも、僕は最近気がついたのだ。
彼が本気で僕から逃れたいのならば殴るなりすればいい。もしくは助けを呼べばいい。僕が彼の友人のエリーゼに敵わないことは知れているのだ。それに、真剣に帰って貰いたいのなら扉を開けずに追い返せばいい。
簡単な答えが用意されているのに彼はその選択肢を選び取らない。何をしようとも、彼は最後には苦笑して僕を許してくれる。
気がつくまでに随分時がかかった。
彼は彼なりに僕を愛してくれている。
もし僕が死んでしまったら。彼と同じ、僕も死体となる。同じ目線に立ったら彼は何を想うだろうか?
今のこの関係は違う次元に住むからこそ許されるものだ。彼と揃いの高さになれば簡単に崩れてしまうような気がする。
この世界の何よりも美しい死体になれるというのに。くすんでいた自分が輝ける時が来るというのに。
愛されていると知って、死ぬのが怖くなってしまったよ。
僕はどうしたのだろうね、メルヒェン。