童話で新年



 「やあ、あけましておめでとう。メルヒェン」

 扉を開けるとそこには当然のように王子が立っていた。こけに彼がいるはずがない、夢に違いない、と決め付けて、勢いよく扉を閉める。狭まる扉の間に足を入れ、無理矢理開こうとしてくるところから、残念ながら夢ではないらしい。

 「…あけましておめでとう。ところでどうして君は私の家の前に立っているのかな」

 「年が変わった記念すべきとき、好いている者と共にいたいと思うのは当然だろう?」

 当たり前のことのように王子は言う。迷いのないその声に僕は軽い目眩すら覚えた。

 よく見てみれば、雪の積もる寒い夜だというのに、この王子は酷く薄着である。昼に会う時と全く同じ衣服はとても寒々しい。マントに雪が積もって斑まで作っている始末だ。

 「外は寒い。気乗りはしないが少し上がっていくといい」

 溜息混じりに告げれば王子は表情を輝かせ、碧眼の中に星を散らす。これは謀られたか、と訝るが一度口から飛び出した言葉は戻せない。

 家の中にはエリーゼとメルツがいるというのに。何故僕は一瞬でもそれを忘れてしまったのだろう。

 リビングから食器の舞う音とエリーゼ、メルツの叫び声、そして王子の楽しそうな声が響いてくる。音として耳に届かずとも、エリザの慈しむような笑いまで聞こえる。

 「何で新年早々こんなミスをしてしまったかな…」

 この分では今年もメルツに弄られっぱなしだろう。いつか真白な自分を見返せる日は来るのだろうか?
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