学ミラ
ある日の昼休み。日頃から人の少ない図書室にはいつも通りの穏やかな空気が流れていた。小さな図書館では相手にならない程の蔵書を誇るこの図書室を愛用する生徒がいた。くすみのない金の髪を持つ半不良、オルフである。
1番入口から遠い机は彼の指定席だった。その机の上には純文学から相対性理論のものまで様々な本が積み上げられている。本に埋もれるように座るオルフは微動だにしない。唯一ページをめくる指先だけが機械的に動く。
隙だらけに見えるオルフを見つめる影が1人。長めの髪を後ろで束ねたオリオンは高い本棚の陰からオルフを凝視する。
(今あいつは隙だらけだ。こんな復讐にいいタイミングはないだろうな。スコルピオスに終われて逃げ込んだ図書室でまさかこんなチャンスを掴むなんてな…)
勝ち誇った笑みをオリオンは浮かべる。そして彼の飛び道具の輪ゴムを指に掛け放とうとした瞬間、図書室の静寂は破られた。
「何ですかオリオン。あなたが図書室にいるとは珍しい。天変地異の前触れですか?あなたが文字を読めるとは知りませんでしたね」
本から目を離さずにオルフは言った。
「頭の後ろに目でもあるのかよ。文字が読めないわけがないだろ」
あくまで平静を装いオリオンは返した。奇襲に失敗し彼の予定は狂わされる。だがオルフがこちらに向き直っていないのは同じである。オリオンの高速連続撃ちを避けることは出来ない。
「弓がしなり弾けた炎、夜空を凍らせて撃ち!!」
小声で呟き輪ゴムを放つが見事に全て地に落ちた。スコルピオスのチョークを砕く破壊力をもつ輪ゴムを落としたのはオルフが読んでいた「古代ギリシャ戦乱史」と書かれた本であった。
「図書室で騒ぐとはなんて低脳な」
「何故今の攻撃を読めたんだ…!?」
「わからない方がおかしいですね。あなたはいつもセンスのない技名を口にする。そのあまりのネーミングを聞き落とす訳がありません。閣下の近くに居ながらなんと無能な単細胞でしょうか」
オルフの言葉はオリオンの神経を見事に逆なでするものばかりで成っている。頭に血が登りオリオンは叫ぶ。
「何だと!?もう1度言ってみろ!!」
「図書室では騒がないようにと言ったのが聞こえなかったのですか単細胞。あなたのためにに時間を割けるほど私は暇ではないんですよ」
手に3冊ほど本を持ちオルフは席を立ち図書室を出て行く。
オリオンは追うため図書室から飛び出す。一直線の廊下の先に見えるオルフに向かい全力で疾走しようとした。その瞬間、四方からチョーク、黒板消し、ロープ、更には画鋲が襲いかかってきた。オルフの十八番、定置トラップである。
「うわっ、何だこれ、痛っ!!」
「奇襲とはこういうものです。そのままそこでしばらく苦しむのがいいでしょう」
そう言い残してオルフは去る。その背を見送りオリオンは吠える。
「今に見てろよ、俺が本気になればお前なんて一撃だぞ!!」
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