冬闇



 皮膚を焦がす太陽もようやく落ち着きを見せ始めた今日この頃。まだまだ暑さは続くのだが、控えめになった太陽を祝う、という名目で今日も僕らはのんびりとティータイムを楽しんでいる。

 せっかくだから、と大きな木の下にテーブルを運び、クロスを架け、ついでに花も添えてみた。吹き抜ける夏の風は熱気を帯びてはいるが、木陰のために爽やかにさえ感じる。真夏の日差しを浴びて青々とした葉が眩しい。なんとも素晴らしい夏の午後だ。

 「邪道かもしれないけれど、まだ暑いからね。ヴィオレット達がいい茶葉をくれたからアイスティーにしてみたよ。ミルク、砂糖はお好みでどうぞ」

 「冷たい紅茶なんて初めて飲むよ…。紅茶は暖かいものしか見たことないからね」

 「持ってきておいてあれだけど、僕も飲むのは今日が初めてなんだ」

 イヴェールは僕の前に氷とストローの入った紅茶を差し出してきた。入っているのはカップではなくグラス。違和感しかないが、僕は恐る恐るそれを口へ運ぶ。思っていたよりは悪くない。

 一方イヴェールは、というと。紅茶に並々とミルクを注ぎ、ガムシロップを5つも入れている。僕自身、相当な甘党だと自負しているが、あれは入れすぎだろう。

 「イヴェール…?それはちょっと甘すぎじゃないかな…。一応タルトとかも用意してあるんだけど」

 普段ならばそこまで気にはならない量なのだ。だが一見すればわかるように今テーブルの上には、エリーゼ特製のチェリーパイにレモンタルト、イヴェールが持ってきたマドレーヌ、クッキーなどの大量のお菓子が乗っているのだ。1回のお茶会分とはいえ甘さは十二分だろう。

 「甘いミルクティーほど美味しい飲み物はないでしょ?それにね、メルヒェン。冷たいと甘さを少し感じにくくなるんだよ」

 満足げに言うとイヴェールはグラスの中身をマドラーで掻き混ぜ、そして飲んだ。過剰すぎる甘さに咽ぶ彼が見られるか、と思ったのもつかの間、幸せそうに彼は微笑んでしまったのだ。

 グラスは限りなく白に近い茶をしている。これはミルクティーではなく紅茶風味の甘いミルクなのではないか。溜息を尽きたくなるがイヴェール本人は満足そうなので何も僕の口からは飛び出さない。

 「さてと、冷たいミルクティーもなかなか美味しいってわかったことだしタルトをいただいてもいい?」

 「レモンタルトもいいけど、チェリーパイも忘れないでよ?エリーゼのパイは絶品なんだから」

 「ヴィオレットとオルタンスのマドレーヌもね」

 甘いものが僕と同様大好きなイヴェールとアフタヌーンティーを楽しむ。エレフに言わせれば吐き気がするほどの量だそうなのだが、これくらいが僕らには丁度いいのだ。美味しいお菓子に囲まれて、なんて僕は幸せなのだろう。

 パイの美味しさに目を細める。1カットをあっという間に胃の中に収め、次はマドレーヌ、と手を伸ばした瞬間に僕はちょっと驚きなものを見る。

 「食べるの早過ぎ…よくそんな甘いもの飲みながら一瞬で半ホールのタルトを食べれるね」

 「僕はメルヒェン以上に甘いものが大好きだからね。タルトも美味しいから仕方がないよ」

 「レモンの程よい酸っぱさがあるとはいえ凄いよ、イヴェール。…そういえば君っていつも甘いもの持ち歩いてるよね?」

 気がつくとイヴェールはチョコレートの包みを破っていたり、口から棒を飛び出させたりしているのだ。前はポケットからキャンディーが飛び出していたし、コートの内ポケットには常にヌガーやキャラメルが仕舞われている。

 甘いものは美味しい。食べると心が暖かくなって幸せな気分になれる。だが、イヴェールの菓子類の所持量は少し異常ではないだろうか。僕ですら思うのだから、確実に平均よりは多すぎることになる。

 「甘いものは僕の動力源みたいなものだし…それにね」

 言葉を切り、イヴェールはマドレーヌを持ったまま立ち上がる。皿の隙間に手をついて目を伏せた、かと思えば屈みこんで、軽く唇を重ねられた。

 「こうやってキスするときに甘いほうがいいでしょ?」

 にこり、と無邪気に微笑むイヴェール。その笑みのあまりの柔らかさに、一瞬僕は何をされたのかわからなかった。

 残りのマドレーヌを一口で彼は頬張り、また他のクッキーへと手を伸ばしている。次第に現状が掴めてきて、状況整理が終わった僕は熱さに顔を真っ赤に染める。

 残りのお菓子を僕は食べられる気がしない。



















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