イヴェ+エレフ+メル



 双子の姫君に呼ばれて俺とメルヒェンは朝と夜の狭間に降り立つ。天井なのか、空なのかは解らないが、頭上は暁光と宵闇が混ざっている。鳥と蝙蝠が飛び交い、太陽と月が東西の地平に浮いていた。

 「ここが朝と夜の間…暁と黄昏」

 「イヴェールが住むところなのか」

 「とっても綺麗なところだね、エレフ」

 無邪気に言うメルヒェンと対照的に俺は眉間に浅い谷を刻んでしまう。一通り辺りを見回しても素直に‘綺麗’ とは思えなかった。朝にも夜にもなれない中間は酷く中途半端で、寂しく感じる。

 「お二人は面白いですわ。メルヒェンさんは対照が混ざりつつ美しさに重きを置き」

 「エレフさんは対照の相容れない、完全には調和しない皮肉にに目を向けましたわ」

 「ふふ、ムシューが貴方がたに入れ込む理由も解りますわね」

 朝と夜の双子は顔を見合わせて笑う。対して俺達は欠片も面白くない。俺は腕を組み、メルヒェンは首を傾げる。

 「ではムシューの元へとお連れいたしますわ」

 スカートの裾と髪を優雅に翻して双子は奇妙なほどに揃って歩く。二人の間に鏡があるのではないか、と思ってしまうほどだった。会話も交わさずに機械的に歩く姫君は豪奢な扉の前で立ち止まる。

 「それでは私達はここで」

 「一度ノックしてから入ってあげてくださいね」

 ぺこりとお辞儀をして双子は去っていく。説明もなしに扉の前に立たされ、どうしたものか、と考える。

 「エレフ。イヴェールに呼ばれたか理由って知ってる?」

 「いや、俺も何も聞いていないんだ。理由無しに人を呼ぶようなやつじゃないから何かあるのだろうが…」

 訝しみながら重量感のある扉をノックすれば中からイヴェールの入って、という声が聞こえてきた。観音開きの扉の向こうにはベッドと間違えるほどの巨大なソファ、そして気怠げに横たわるイヴェールがいた。

 「どういうつもりだ、イヴェール」

 「ヴィオレットとオルタンスが廻ってきた物語の主人公の真似。女王様ってこうやって長椅子に寝そべって民と話をするらしいね。だから僕もやってみたくなったんだ」

 「俺の知り合いに王がいるが奴はそんな体勢で臣下に指示を出したりはしないぞ。用があるならせめてきちんと座れ」

 全く、双子の姫君は何を吹き込んでいるのだろうか。純粋なイヴェールのことだからそれが何かもよく解らないまま真似をしているに違いない。溜息をつきながら座らせれば口を尖らせられる。

 「それで、今日僕達を呼んだのは何で?イヴェールの家に呼ばれたことなんて今までなかったから、何か緊急事態でもあるのかと勝手に思ってたんだけど」

 メルヒェンにまで心配をかけさせるとは一体どういうことだろうか。日頃心配される側の人間が心配する側に回るのに違和感が拭えない。

 「特に意味はないんだよね。ただ2人をうちに招待したかっただけ。自分でいうのもなんだけどさ、なかなかいいところでしょ?赤と黒の境目に不思議な色に染まる大理石に」

 「いつもはイヴェールが俺かメルヒェンのところに遊びに来てるからな。確かに綺麗だ。例えるなら…」

 「イヴェールをそのまま写したみたい、でしょ?」

 完全に考えを読まれていた。俺が反応したのに気がついたかはしれないが、メルヒェンはいつものように微笑を浮かべている。普段はマイペースで抜けているところも多いのに妙なところで鋭い。

 気に入らなかったので軽く頭を叩いてみれば、不満に満ちた視線を投げつけてくる。こういう時の目はメルツのものだ、と思う。もっともメルツ本人の眼光には遠く及ばないが。

 「二人ばっかり楽しそうで狡いよ。どうせ僕は元から仲間外れだけどね」

 「どうしてそうすぐに話を変な方向へ持っていく。お前が仲間外れな訳がないだろ?」

 「ううん、間違ってないよ。僕は物語を廻るだけ。でも君達は違う。物語に干渉して流れを変えられるんだ。エレフは運命を変える。メルヒェンは復讐劇の指揮を取る。僕はただ見つめるしか、見守るしか出来ない」

 笑顔こそ崩さないが、イヴェールの声には自嘲が混ざっている。普段は笑ってばかりで気がつかなかったが、こいつにも大きな悩みがあったようだ。だが、その悩みは俺にはどうにも出来ない。

 「関わることだけが全てじゃないよ。僕は復讐に手を貸したけど、それが正しかったのかは解らない。エレフも運命に立ち向かったけれど、結果はこの通り。ねえ、イヴェール。何が最善だったのかはもう解らないけど僕は充分幸せなんだ。イヴェールは今幸せ?」

 「…ヴィオレットがいてオルタンスがいて。エレフとも仲良くなれたし、メルヒェンって友達もいる。僕が不幸せです、なんて言ったら神様に怒られちゃうだろうね」

 困ったように笑いながらイヴェールは言う。その顔を見てほっとした俺は口を開いた。

 「物語の傍観者ってのは一番贅沢な立ち位置だ。正しい道筋も、正しい選択肢も全てが見回せるからな。どの位置にもそれぞれ良いところはある。だけど自分に相応しいのは一箇所だけだ。」

 「僕の隣にヴィオレットとオルタンスがいたり、エレフの隣にエリーゼがいるなんてちょっとおかしいでしょ?だから僕はこのままでいいし、エレフだって今まで通りでいい。ほら、仲間外れじゃなくって皆同じ、今幸せですって括りになれるよ」

 どこと無く似ている二人。黒が白を優しく包む。全く、これじゃ俺が仲間外れじゃないか。

 「全員今のままでよし、これが結論だ。せっかく久しぶりに三人で集まったんだから、重たい空気はさっさと払ってしまおうか」

 この中で一番子供っぽいのは自分だろう、と思う。それを見透かしたようににやにや笑う二人が気に入らなかったので、俺は二人同時にげんこつをお見舞いしてやった。



















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