童話ほぼ全員



 「問題です。明日は何の日でしょうか?」

 「12月25日…つまりクリスマスよ!」

 「1つ提案があるの。クリスマスといったらミサだけど、それだけではつまらないわよね」

 「だからパーティーをしようってことにしたの。私達4人だけじゃなくってお姫様達も呼んで盛大にクリスマスをお祝いしましょう!」



 きっかけはエリーゼとエリザだった。数日前から2人で何か計画を練っていたようだったが、パーティーとはまた楽しいことを考えてくれたなぁ、と思う。4人でのクリスマスも素晴らしいものだろう。でもパーティーとなれば楽しくないはずがない。

 エリーゼ達はもうすぐ到着するだろうと思われる姫君達のお迎えに行ってしまった。久し振りに会う友人を僕も迎えに行きたかったのだが、一言で却下されている。ただでさえ少ない人手をこれ以上は減らせない、と室内に追いやられていた。

 「メルツー?クロスのアイロンかけ終わったんだけど」

 「なら次は食器磨きとテーブルセットだね。僕もこれが終わったら手伝うからナイフでも磨いておいて」

 同じく室内組のメルツは暖炉の灰を掻き出していた。綺麗な白銀の髪が汚れるのも気にならないらしく、にこやかに作業をしている。

 「なんだか楽しそうだね、メルツ。周り見ないと怪我するよ?」

 「メルヒェンにはそれ言われたくないね。僕はちゃんと自分の身長を知ってるから頭なんてぶつけないよ。それよりも手元が危ないよ?」

 指摘されてみれば、成る程、ナイフの刃が人差し指の上を滑っていた。慌てて持ち直せばくすくすとメルツに笑われてしまう。

 きっと彼はエリザが楽しそうなことが嬉しいのだろう。大切な人の笑顔は自然と自分にも舞い降りてくるものだ。だから僕も仕事に不満を抱きつつも表情は晴れやかだろう、と思う。

 何度か床に落としかけたり、指を切りそうになったが食器磨きを終わらせる。気がつけば、作業を始めた時間より随分と太陽は傾いていて、窓からはオレンジ色の光と木のシルエットが差し込んでいた。僕が懸命に、しかしもたもたと食器と格闘していたうちにメルツは素晴らしい働きをしていた。

 森から引っ張ってきたモミの木には、真っ赤に熟れた姫林檎が飾られ、その根元にはプレゼントの山。テーブルを繋げて、皺1つないクロスを被せ、磨かれた食器は行儀よく並んでいる。とりわけ僕を驚かせたのは各席に用意されたクリスマスローズのアレンジメントだった。

 「なかなかいいでしょ?僕のテーブルセッティング」

 「…素晴らしいとしか言えないよ」

 素直な感情を口にだせば、メルツは更に上機嫌になる。鼻歌でクリスマスソングを歌いながら、今度はリースまで飾り始めてしまった。

 「ところでさ、エリーゼとエリザは姫君達をどこまで迎えに行ってるのかな?随分姿を見かけないけど…」

 「エリザ達?普通に玄関までだと思ってたけど…見に行ってみようか。ずっと玄関になんていたら風邪をひくからね」

 メルツに続いてリビングを出ようとした瞬間、小さな家の中にそれはそれは賑やかな笑い声が響き渡った。家が壊れてしまうのでは、と不安になるが、それは待ち侘びていた友人達の到着を手っ取り早く教えてくれる。

 「グーテンモルゲンッ!遊びに来たわよ!」

 「こんばんは。ほら、モルもご挨拶しなさいね」

 「もぐ子が中々黒狐の仕事が終わらなくってね。エリーゼ達にはわざわざ森まで迎えに来て貰っちゃって。遅れてごめんねー」

 「ホレ子だって服が決まらねぇ決まらねぇ言ってたべ」

 「まあまあ、人様の家で喧嘩なんてするものじゃないわよ?」

 「伯子の言う通りよ。でも1番の原因はあの王子に決まってるわ…」

 最後の野薔薇姫の言葉が引っ掛かるが、それすらすぐに忘れてしまうくらいに僕も舞い上がってしまった。普段は中々会えない友人達に一気に会える。クリスマスはなんて素晴らしいのだろう。

 姫君達に続いて寒そうに震えたエリーゼとエリザも姿を見せる。素早くブランケットをエリザに羽織らせたメルツは流石と言うべきだろう。僕もそれに倣ってエリーゼにブランケットを差し出せば、ありがとう、と言われる。

 「本当散々な目にあったわ…全くあの王子ったら!私の顔を覚えていて『君と共に歩みを進めればメルヒェンの元に…!』とか言うのよ?」

 「…それは災難だったね」

 「メルツ、眉間に皺が寄ってるわ。素敵なクリスマスイヴに幸せが逃げて行ってしまうでしょ?」

 「でもエリザ…どう考えてもその王子って…」

 「あら、大丈夫よ?あいつなら私と雪白で雪に埋めておいたわ」

 腰に手をあてて自慢げに野薔薇姫が言う。可憐な姫君とは言い難いが、こういうときに何より頼りになる。雪白と2人でならエリーゼをも上回るのではないだろうか。

 「2人が結構念入りに埋めたから大丈夫だと思う。それよりも冷めきらないうちに食べ物をだすべきじゃねぇか?」

 「そうですね。私も修道院のみんなに教えて貰ってシチューを作ってきたんです」

 「せっかくイヴから一緒にいるんだから豪勢に行きたいでしょう?だから私達で持ち寄ってみました」

 テーブルの真ん中に大きな皿と鍋が並べられた。ローストチキンにチーズのパイ、そして僕が食べたくて仕方のなかった肝臓料理がおいしそうな香を立ち上らせる。

 各自好きなように席に着き、料理を取り分け始める。その和気藹々とした風景がとても心地好い。

 「嬉しそうね、メル」

 「そんなに顔に出てるかな…」

 「だってメルのことは何でもおみとおしですもの」

 邪気のない笑顔で言われれば反論なんて僕に出来るはずがない。僕の皿にエリーゼは肝臓料理を取って、いつものように頭を撫でてきた。

 「もう今年も終わりだね…年の終わりにこうしてみんなに会えてよかったよ。来年もよろしくお願いします」

 「違うわよ、来年もじゃなくって」

 「永遠に、でしょ?メルヒェン」

 「そんなこと言われなくってもずっと私達は大事な大事な友達よ!ね、みんな?」

 雪白姫が立ち上がって言えば、姫君たちは笑顔になる。そのどれもが暖かくて、僕は少し泣きそうになってしまった。

 「そうだね。いつまでもよろしく!それじゃ1日早いけど…」

 掲げたグラスのシャンパンが波打つ。光を取り込んでは揺れ、まるで皆の手に光が宿ってるみたいだ。

 『Frohe Weihnachten!!』


















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