「メルったらこの前もキャビネットの角に足をぶつけてて…」

 「まあ、そうなの?おっちょこちょいなのは変わらないのね。ちゃんと見てあげてないとまた井戸に落ちちゃうかもしれないわ。エリーゼがいるからそれだけに留まっているのかも」

 金髪の少女が2人、鈴の音のような声で笑う。風景は美しいものだが、話題が話題なのでメルヒェンは溜息をついてしまう。

 「確かに僕はよく足をぶつけるし、窓に手を挟むけど…わざわざ言わなくてもいいじゃないか」

 「エリーゼはお喋りだからね。でもいいじゃないか。仲の良い証拠だよ。そうは思わない、メルヒェン?」

 「でもエリザにばらさなくたって…」

 「ばらさなくても皆メルヒェンの指を見ればわかっちゃうもんね」

 「そんな、メルツまで酷いよ」

 しゅんとなるメルヒェンの頭を撫でるメルツの手は優しい。エリーゼとはまた違う温かみにメルヒェンは安心感を覚える。

 「どれだけエリーゼ達に遊ばれようとこの空間が心地好いと感じてしまう自分が恨めしいよ。なんでメルツの失敗は話題に上らないんだろう」

 「僕はそんなドジは踏まないからね」

 純真な笑顔で返され、メルヒェンは反論が出来ない。君だって怪しい2人組を母の元へ連れていったじゃないか、と言いたかったが、それを言うほどメルヒェンは浅はかではない。

 メルツに指摘された人差し指の先を見る。消毒をして、雑菌が入らないように絆創膏を貼ったのはエリーゼだった。衣服で見えないが足にもぶつけた時に出来た青痣がある。注意を払って行動しているのが無駄なのか、それとも払っているつもりなだけなのか。それは本人にはわからないが、わかったところで怪我が減るとは思えない。

 「でもそこがメルヒェンのいいところなんだから」

 「なんか複雑な気分だね…複雑と言えばさ、メルツ。僕達の関係も複雑だよね。僕は死者、君は生者。エリザは人間だけどエリーゼは人形。君は僕であり、僕は君。それが同じ空間にいるなんてもの凄い矛盾だと僕は思うんだよね」

 真白な瞳を2人の少女へと向ける。3段にの皿にはサンドイッチにスコーン、色とりどりのフルーツがあしらわれたケーキが乗せられている。香り高い紅茶を飲みながら楽しそうに話す姿は何とも平和である。

 エリーゼのカップの紅茶は減っていない。それは当たり前のことだが、それすらもメルヒェンには小さな矛盾に感じた。減ることのないケーキが乗せられた皿も不自然であった。

 「矛盾…ね。君は死んだ僕な訳だし。でも矛盾ってそう悪いものでもないんじゃないかな。話せるはずのなかった君とこうして会話を弾ませられる。小さなことだけど僕はこの世界が好きだよ。ささやかな幸せは大切でしょ」

 「矛盾しているから舞い降りた幸せ、か。そうだね、悪いものじゃない」

 メルヒェンが顔を綻ばせると同時にメルツも笑顔になる。

 不自然な世界だからこの幸福を噛み締めていられるんだ。





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