抱きしめるまであと、
※辰馬が幼児化。
「ふぁーあ」
背伸びしながら大きな欠伸をひとつ。まだまだ眠気が抜けないが、新八の声が聞こえたので起きることにする。早く飯を食わないと神楽が全部食べてしまう。寝惚けた目を擦り瞬きを数回。よし、起きた。
「銀さん。坂本さんも起こしてくださいよ」
「え?なんで辰馬?」
「昨日あんたが酔っぱらった坂本さん持ち込んできたんでしょ。ちゃんとご飯用意しましたから」
「あー…」
そういえば酒飲んでたらこいつに会って付き合ってたんだっけ。なんでこんなの持ち帰りしちゃったかな。隣の布団に寝ている辰馬に目を向ける……って、あれ?
「いねぇけど…そっちいってねーか?」
「見てませんよ」
「帰ったのか」
「坂本さんの下駄ありますけど」
そう言われても隣の布団に坂本はいない、あのでかい体が見当たらないのはおかしい。頭を掻いているともぞりと自分の布団が動いた。さっきまで気付かなかったが隣に感じる温かみ、そこは不自然に膨らんでいる
「いや、ないだろ。だいたいこんな小さくないし、どう考えてもこんなコンパクトにはなんねーし」
自分に言い聞かせるように呟き、おそるおそるその膨らんでいる部分を捲ってみる。ほら全然違うじゃん、普通の子供が寝てるだけ。
「ん、ぅー……」
「ってなんでガキが寝てんのぉぉぉ!?」
しかもなんで真っ裸!?俺が叫ぶと知らない子供は起きはしなかったが身動ぎした。辰馬は持ち帰ったけど子供を誘拐した覚えはないしそんな趣味もない。
「銀さんうるさいですよ。神楽ちゃんもう起きて食べ始めて…」
新八が部屋に入ってきて目があう。俺は子供を起こそうと持ち上げているまま固まった。
「え、と…すみません。とりあえず神楽ちゃんに近付かないでくださいよ」
バタンと戸が閉められる。新八と神楽が何やら話しているようだった。
「違ぇぇ!!勘違いしないで!俺も分かんないだけど!ちょ、やべ泣きそう」
「大丈夫アルヨ新八。銀ちゃんきっとショタコンなだけネ」
「そういう問題じゃないから!あんな大人と一緒にいたら腐っちゃうよ!」
「銀ちゃんどこの子拾ってきたアル?田中さん家のわんぱく坊主アルかー!?それとも木村さん家のガリ勉くん!?」
わいわいとうるさい奴等がはいってくる。俺は子供を足の上に乗せ、起こすために肩を掴んで前後に揺すった。
「おい起きろ!なんか説明してくれぇぇ!」
ぐらんぐらんと頭が取れそうなくらいに揺さぶるが起きる気配がない。普通起きるだろこれ。
「なんだ、もじゃもじゃの子アルか」
「え?もじゃもじゃ?」
子供を改めて見てみる。見覚えのある癖の強いくるくるの髪に、しっかりめの眉。そしてこの図太い神経。
「たつま…?」
「ん、きんとき…」
呼ばれた名前と開かれた碧眼に目の前の事実を疑った。
「あっははは!まさかこがぁちっこくされる思わんかったぜよ」
「夜遊びしすぎて部下に薬盛られるって、本当に社長ですか」
「社長じゃよー。体はって商品の効果ためしちょるんじゃ」
「いや知らなかったんでしょアンタ」
「いつかむっちゃんに殺されるネ」
「あはは。じょうだんに聞こえんのう」
辰馬の顔は笑ってはいるが多少ひきつっていた。まぁ自業自得だろう。辰馬が目覚めた直後、携帯が鳴り、出てみると部下からだった。一日くらいで元に戻るらしいが迎えにくるまで目を離さず見ていてくれとのことだ。まぁ、報酬も貰えるらしいから悪くはないだろう。
さすがに裸はまずいとおもい、俺のインナーを着せている。7・8才くらいの子供の体にはかなり大きく動きづらそうだ。
「きんときー。これ動きにくいきぬいでええ?」
裾をぱたぱたさせる辰馬は本当に子供まんまで。小さいころは人って可愛いもんなんだなぁと感心した。
「裸でうろちょろさせんのはさすがに駄目だろ。あときんじゃなくてぎんだから。」
「うー…けちぃ」
あからさまに拗ねる辰馬に少しキュンとしてしまう。惑わされるな俺、相手は辰馬だ。
「そうだ銀さん。今から僕たち姉上と一緒に新しくできた甘味屋いくんですけど、どうします?」
「てめえらだけで行っとけ。俺はこいつ見とかねーといけねぇし」
甘味にはとてもそそられるが、こいつを外に出すわけにもいけないだろう。仕方ないが今日は諦めるとする。
「ならもう行ってきますね。行こう神楽ちゃん」
「土産たっぷり買ってこいよー」
「はいはい」
「銀ちゃんちびもじゃに手ぇ出したら駄目アルヨ」
「ださねーよ」
そのまま新八と神楽は定晴も散歩ついでにと連れていき、部屋が一気に静かになった。隣にいる辰馬は飯を食い終わったらしく、背もたれに小さい体を預けていた。
あー、やべ。なんか可愛い。普段とのギャップのせいか、隣の辰馬をとても可愛く感じてしまう。抱きしめればすっぽり腕に収まるであろう体やふにふにとした頬は見ていると胸の奥がなんかじんじんする。触りたい、抱きしめたい。なにこれ母性本能?あ、俺男か。これって普通のことなんだよな。誰だってなるだろたぶん。いやでも公園で遊んでるガキには微塵も感じたことはない。ならなんでなんだよ。
「きんとき?」
動かない俺を不審に思ったのか、辰馬に呼び掛けられる。
ぎゃー!小首を傾げるな!!くっそ可愛いじゃねーかチクショー!!
辰馬から目を離し掌で口元を覆う。はぁはぁと息が荒いのが自分でわかった。これなんか変態じゃねーか俺?いや別にそんな趣味ないしそういう意味で悶えてるわけでもない、ことはないのか?ああ、分からん。
「さっきからへんじゃよ、だいじょうぶがか?」
「だ、大丈夫…たぶん」
全然大丈夫じゃないです。舌ったらずなしゃべり方は今の俺には超絶クリーンヒットだった。
俺子供が好きなのかな?いままでわからなかっただけで目覚めてしまったのだろうか。
「たつま…」
「なんじゃあ?きんとき」
辰馬のほうを向くとばちりと目があう。暫く沈黙の間見つめあっていると、辰馬がにへら、と柔らかく笑った。もー無理だな。
「可愛いんだよチクショーッ!」
「わっ!?」
ついに辰馬を抱きしめてしまった。小さい体が俺の胸に入れられる。はたから見ればひどい光景かもな。
「頭おかしゅうなったか…?」
「うるせぇよ。言っとくが俺は別に変な趣味とかないからな」
「この状態で言われても信用できんろー」
辰馬は少し暴れたが、無理だと諦めたのか大人しくなった。子供体温ってやつ?ぽかぽかしてて気持ち良い。
「お前ずっとこのままでいいんじゃねぇの?」
「いやじゃ」
辰馬の即答に結構本気で言ってしまった自分に苦笑してしまう。そりゃ当たり前だよな。
「ぎんとき…」
「なんだ?」
「ちっくと、ねむい…」
「あー飯食ったからか?寝てもいいぞ。どうせすることもねぇし」
背をぽんぽんと叩いていると、暫くして胸元から寝息が聞こえてきた。起こさないように抱っこして布団を敷いたままの部屋に戻る。布団に辰馬をそっと乗せて、頭を撫でた。
「俺も寝よっかな」
隣の布団に寝転がると、辰馬の顔がすぐ近くになる。
「おやすみ」
なにをおもったか、勢いで頬にキスしてやると辰馬が笑った気がした。
起きると隣には辰馬がいなくなっていた。時計を見れば寝たときから一時間ほど経っているのが分かる。部屋を見回すと辰馬の服もなくなっていることに気付いた。寝ている間に迎えが来たのだろうか。そうだったらもう少し一緒に居たかったな。居間にいって辰馬がいるか確かめる気にもなれず、もう一眠りしようかと寝返りをうつと、戸が開いた。
「お、起きたがか?」
そこ立ってにいたのは辰馬だった。そう、辰馬。いつもの辰馬だ。
「お前、戻ったの?」
「わしもびっくりしたんじゃがの。陸奥に電話したら寝たら戻るっちゅう薬やったらしいぜよ。寝る子は育つっちゅうやつじゃ」
どうやら電話をするのに俺を起こさないようにと居間に行ってたらしい。いつもと同じ辰馬はアッハハハといつものように笑う。
「ふーん、まぁ戻れて良かったな」
「金時は全然嬉しそうじゃないのう」
「別にそうでもねーよ。あんときゃ変なモンに侵食されてただけだし」
「抱きしめられる思わんかったろー。おまん危ない奴になりかけちゅうよ」
「なんねーよ」
お前だから抱きしめただけかもしんねーし。口に出そうになったがすぐに引っ込めた。相当な爆弾発言になってしまうし、別にそういうつもりでもない。それだけはないと思う。きっとないだろう。
「わしはいつでも抱きしめられてええんじゃけどな」
「おま、どうしたんだよ?」
「冗談じゃよ。けんど、銀時が子供ば抱きしめたいんならまた薬飲んでもええよ」
そんな悲しそうな顔でそんな冗談言う奴いるかよ馬鹿。なんなんだよもう。こいつはもう子供でもなんでもねーのに、胸がじんじんしてきたじゃねぇかよ。やっぱわかんねーよ。お前抱きしめたらわかんのかな。いつでも抱きしめていいんだろ。確かめんのに、早いにこしたことはないもんな。
「辰馬」
「なんじゃ銀時?」
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それはもうアレしかないだろ(笑)って感じですね。辰馬のことアレな気持ち押し込めてて、子供の辰馬に感じたのを母性本能的なのに勘違いして結果これ。辰馬は銀さんのことずっとアレで戻った直後は銀さんはただ子供好きなんだと思っててあんなこといっちゃったみたいな。これが分かりやすく盛り込まれた文章をかけるようになりたい。