▼ 愛故に
「ねぇ涼太…私死んでもいいかな?」
また、彼女が壊れた
「ダメ、ずっと俺のそばにいてくださいっス」
そういって抱き締めてやればうれしそうに笑って頷く彼女
「でもね、疲れちゃったの。私はいないほうがいいの。」
「俺のファンの子達のことだったら気にしないでよ。俺は名前が好き。それでいいじょないっスか」
たまに、この子は壊れるんだ
普段はかわいくて、
みんなに優しくて気が利く、
誰もが羨むような俺の自慢の彼女
「そうじゃないの、涼太…」
「死ぬなんて言わないで!俺の大好きな名前でいてくださいっス!」
名前はすこし悲しそうな顔をした
「……うん。」
その日の帰り道、名前は死んだ。
俺と別れたあと、猛スピードで走ってきたトラックにひかれたらしい。
彼女が死んだ数日後、学校のロッカーから一冊のノートが見つかった。
なんのへんてつもない真っ白な表紙のノート、中は日記帳だった
『死にたい』
『涼太が望む女の子を演じるのに疲れた』
『今日も涼太は私を好きと言ってくれた。嫌われないように、もっと好きになってもらえるように、もっともっと頑張らなくちゃ』
そして最後の日付は名前が死んだ日
『死にたいって言ったらひきとめてくれた、うれしい。
でも、涼太の大好きな私でいるためにはこうするしかないよね。
ごめんね、大好きだよ。』
あれは事故なんかじゃない、俺が殺した。
俺の名前への気持ちが名前を追い詰めたんだ
「…っ名前」
いつだって自分の気持ちばっかりで理想を押し付けてた
ありのままの君が好きだって、伝えることもできずに
「…ごめん、ごめ…名前っ、」
この声はもう届かない。
End