「おっ、いたいた」


いつも通り、下校のため校門を通り抜けようとしたとき聞きなれない男の声とともに左腕を掴まれた。


ここら辺ではお嬢様学校として有名なこの女子校。そこの生徒会役員をやっております橋本美愛[ハシモト ミア]です。生徒会の仕事もなく、今日はまっすぐ帰ろうと思っていたところ、この辺じゃあワルイ意味で有名な男子校の制服をこれでもかというほど着崩した男子生徒が1人、…いや、2、3人引き連れてやってきました。


「…、あの何か?」


内心めちゃくちゃびびってるけどそれを表面には出さず、落ち着きを払って接してみた。


「うをーっ。声まで可愛い。」


俺感動したー。とその男子生徒は呟いた。何故だか顔をまじまじと見られる。近い、キモいと言ってやりたい。

だけど見た目がこう…、怖いので無理。私ビビりだし。


「…っあ、の」

「んー??」


だんだん、距離が近くなってる気がするのですが。
私の気のせいでしょうか?


「放してください…っ」

「えぇー、どうしよっかなぁ」

「っ!、そんな」


うぅー、怖いよー。助けてー。

通りすがりの生徒はちらちらとこちらを見ながらもそそくさと足早に逃げてゆく。…もう泣きたい。

明日になって先生に呼ばれたりしたらどうしよう…。


「美愛…?」

「!」

男子生徒の口から出た私の名前にびくり、と身体を強張らせれば後ろにいるわりと大人しめな人が「あ、怖がった」と呟いた。


「あ、悪い。怖かったか?」

「……っ、大丈夫、です」


全然大丈夫じゃねぇよおおおぉおお!

自分に自分でツッコんでみた。


「俺、薫っつーの。よろしく美愛。」


薫[カオル]と名乗るこの男の子。
大型犬のようだ。にかっと笑う笑顔は可愛い、くも見えた。


「今日から俺のこと、薫って呼んでいいからなー」

「えぇ?!あのっ、えぇっと、」

「ふはっ。やっぱ美愛、見た目通りどんくせぇんだな!」


軽くショックな発言をして私の頭をぽんぽんと撫でる。

理解できない。話についていけないんですが。
それより私があなたの名前を呼ぶ機会があるのでしょうか。


「ほれ、呼んでみろ?」


じーっと見られる。え?今?ここで?君の名前を??

すっごい見られてる。なんか、照れる。中学から女子校育ちの私にとって男の子なんて免疫ないから困るんですが!

そんなことは知らず、男の子は「はーやーくー」とせかす



「…、…っ薫、くん」


決死の想いで呼ぶ。うきゃー、恥ずかしい…!つーかこれでよかったの?男の子の顔をそっと窺えば、ぱちりと視線が交じった。


「わっ!ちょ、見んな。今はダメ!」


口に手の甲をあてて「わーっ、わー」とあたふたしている。

え、っと…?え??
顔を真っ赤にして手で顔を仰ぐようにしている男の子。その後ろで「ありゃ、」「キモい」など、友達らしき人が呟く。


「〜〜っ、ずるいだろぉ、っ」

「あの…?薫、くん?」

「あぁあ!!呼ぶなって!」


…むっ。君が呼べっていったから呼んだのに。こんどは呼ぶなだと?




「あっ!違うんだ、だから、その…。

――――――照れる、だろっ…」



顔を真っ赤に染める、薫くん。無意識に、私の心を高鳴らせていた。



(もしかしたら、案外怖くないのかもしれないな)


なーんて考えが浮かんだのは、まだ秘密。




時折みせる、その顔に
(不本意にも)
(彼を知りたいと思った)



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