もじもじ | ナノ

(謎時間軸)



今まで、女性関係がなかった訳ではない。むしろありすぎるほどだと思う。ありすぎるほど、というのは聞こえは悪いが、困らなかったのは確かだ。溜まれば手近な娼婦にちょっかいを出したし、思うようにいかなければ多少手荒な事もした。つまり、かなりやんちゃをしてきたわけだけれども。
目の前でにこやかに花を飛ばしている年下の巨漢な甘ちゃんに目をやると、さらに深く微笑みを返してきた。

「いや、まさか、本気ですかい?ジョースターさん…」
「どうしたんだいスピードワゴン、今更会いたくないとでも?」
「い、いや、そう言うわけじゃあ…」

ジョースターさんは最近新調したと言う如何にも高そうな蓋付きの懐中時計を開き時刻を確認すると、そろそろ来ると思うのだけれどと小首を傾げた。
お分かりいただけただろうか。この俺、ロバート・E・O・スピードワゴンはジョースターさんことジョナサン・ジョースターの知り合いである女、ああ、いや、女性と会わなくてはならない状況にある。何故か。理由としてはジョースターさんのご厚意、とでも言うべきか、ああ、つまるところ、俺も生きてきて20半ば、そろそろ身持ちを固めてはどうだろうか、と、そういうことらしい。言い分は勿論分からなくはない。確かにそういう時期でもあるのは分かっている。ジョースターさんもエリナさんと結婚をするという話だし、ジョースターさんよりもいくつか年上の俺にそういった話がないのは確かになんとも言えない。の、だが。何もジョースターさんの知り合いでなくとも、というのが俺の言い分である。ジョースターさんの知り合い、ということは、少なからず貴族、或いは貴族と繋がることのできるそこそこに身分のいい家の出であることは想像に固い。こんな所詮ゴロツキの頭を張っている程度の俺なんかを相手にするだろうか。そりあ、初回、つまり今回見えるのはジョースターさんが是非というからであるに決まっているし、それがなければきっと縁もゆかりもない俺なんかゴミ同然だと、会ってもくれないだろう。ジョースターさんには悪いがこんなのただの恥さらしだぜ。
そんな俺が何故こうしてジョースターさんに見立てていただいた(俺にしては)お高そうな服を着て大人しく座っているのかというと、恥ずかしい話、もしかしたら…、というものを期待しているからに他ならない。ジョースターさんのお知り合いだ、きっとその人もジョースターさんと同じ大甘ちゃんで器の大きな女性なのだろう、という淡い微かな期待。そうでなくても、せめて、話の分かる人であって欲しい。我ながらバカ野郎と罵ってやりたいとも思うのだが、どうにもこの期待を捨てきれずこうしてこの日まで来てしまった。

「どうしたんだろう、少し遅いな、待ち合わせに遅れるような子ではないのだけれど…」
「あ、あぁ、そうなんですかい?何かあったのかもしれませんぜ、もう少し待ってみてはどうですかね?(いっそ、もう
来ないでくれ…)」

ジョースターさんはそう言って少し外の様子を見てくるよと席を立った時だった。
扉が勢いよく開いて、それはそれは上品な女性が…と言いたいところだったが、勢いよく扉を開けたのは未だ少女ともとれる程幼さの残る顔立ちの女性、いや、もうあれは少女だ。少女が肩で息をしながら扉を勢いよく開けたのだ。

「ごめんなさいっ!準備に手間取ってしまって…馬を飛ばしてもらったのだけれど少し遅れてしまったわ、本当にごめんなさいっ!」
「やあ!遅いものだから心配したよ名前!スピードワゴン、名前が来たよ」

あぁ、つまり、俺に紹介する女性ってのはつまり

「………ガキじゃ…、ねぇですかぃ」

思わず、心で思ったことが口をついて出てしまった。しかもそれは自分でもたいそう驚くほどに落胆した声だった。それほど心のうちでの期待が大きかったということなんだろう。ジョースターさんも苦笑いだ。運よく、と言っていいのか、少女の耳にガキ発言は聞こえていなかったようで、少女は息を整えながら、こちらへ歩みを進めてきた。
少女、とはいえ、いいところの出だ、それにジョースターさんに恥をかかせてはいけない、俺は立ち上がり深々と頭を下げた。

「ええと、名前、彼がスピードワゴンだ、スピードワゴン、彼女が名前だよ」
「初めまして、スピードワゴンさん、名前と申します」
「あぁ、ええと、…ロバート・E・O・スピードワゴン、です」

どうにも、堅苦しいのは性に合わない。引くつく口角を感じながら少女、いや、名前に手を差し出した。名前もそれに気付いて俺に手を差し出し、握手を交わした。

「さて、立ち話もなんだし、座ってとりあえず飲み物を飲もうか」

ジョースターさんに言われ、交わした手のひらを離し、各々席に座ると、ジョースターさんが予め注文していたのかすぐにワインが運ばれてきた。
正直な話、ジョースターさんには申し訳ないが、この話にもうすでに乗り気でない俺がいる。目の前でジョースターさんと談笑しているのは明らかにどう見ても幼い少女にしか見えない。俺は、ジョースターさんに騙されているのだろうか。いや、ジョースターさんがそんな人でないことは充分に分かっているが。この、少女と、付き合えと…。冗談じゃないぜ。俺に少女愛好の趣味はない。本気の本気で、ジョースターさんに悪いがこの話、断らせて

「…ってことで、いいかな、スピードワゴン」
「はっ、はぃ?」

まずい、話を聞いていなかった。
少女を見ればよろしくお願いしますと恭しく頭を下げている。ジョースターさんも立派なふと眉をハの字にして頼むよスピードワゴンと言わんばかりの顔だ。どう考えても、この顔は、断れない。

「ま、任せてくださいよぉ!ジョースターさん!」


俺は最っ高に阿呆だ。

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いつか続く

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