終わりは突然やってきた。
いつも通り三浦の呼び出しに応じ、空き教室へとやってきた。
呼び出しに応じるたびに、三浦という男に触れるたびに、俺は確かに惹かれていった。なんでかはわからない。わからないが、三浦の一挙一動に揺れ動くのだ。
そして回数を重ねるごとに、いつ身体をひらかれるのかと、不安にも似た期待が胸の中を渦巻いていた。
ここまできたら、すべてを三浦のものにしてほしかった。
なのに。
空き教室で待っていた三浦は、例の写真を俺の前で削除し、もう終わり、と一言だけ口にした。
理解できずに呆然とする俺にいつも通りの涼しげな顔を向ける。
「もう、いらねえのかよ」
ようやく理解した俺は、そう口にした。みっともなく声が震える。でも隠せない。
「………」
「お、俺は、お前にとって、」
「おもちゃだよ」
「っ」
「ただの、性処理の玩具だ」
「なんで………」
「殴るなら殴っていいよ」
「………………」
殴れるわけねーじゃねえか。
それをわかってて、こいつは、三浦は。
「ふう、じゃあもう行くから」
俺の横を三浦が通り過ぎる。
その腕を掴んでぶん殴ることも、押し倒すことも、何でもできたのに、できたはずなのに、俺の腕は三浦の指ひとつ掴めやしなかった。
それ以降は以前と同じ日常が戻ってきた。喧嘩して、ぶん殴って、ぶん殴って、ぶん殴って、それでも足りない。
三浦が足りない。
なんであんなくそやろうに、って思う。でも三浦なんだ。俺には三浦が必要なのに。
「あっれ、真田じゃん」
「あ、ほんとだ」
目の前に多分ためのチャラチャラした2人がやってきた。にやにやと下卑た笑いを浮かべたそいつらは。
「そういや真田って三浦ムリヤリヤったってほんと?」
なんてわけわかんないくそみてえなことを言い出した。
「………は?」
「ちょいちょいお前ら2人で消えてんじゃん。三浦がお前に、はないだろうし。お前がムリヤリ付き合わせたんだろ?」
「どうよ、男同士ってやっぱりイイわけ?」
「……………」
無言で相手2人を睨みつける。
こいつらまじぶん殴る。
「こわ。睨むなよ。でも真田が気に入るくらいだからよっぽどいいんだな」
「なあ、俺らにも味見させてよ。三浦」
「はあ?」
「いーじゃん。最近2人でいるの見ないし、飽きたんだろ?問題ないだろうが」
「……けんなよ」
俺が否定の意志をむけると2人は顔を見合わせにやりと笑った。
「じゃあさぁ、三浦は諦めっから真田食わせてよ」
「あ?」
「三浦には手ぇ出さないからさ。お前でいーよ」
なんだよ、いーよって。何様だてめえ。
でもこの選択に選択肢なんてない。
むかつくが、三浦をやるくらいなら、こんな身体いくらだって差し出してやる。どうせもう用済みだ。どうってことねーよ。
ただバージンを三浦以外に捧げんのは残念だけどな。
三浦はもういらないっていうし。
「……わかったよ。そのかわり三浦には手ぇ出すなよ」
「まじで!やったー」
「前から男って興味あったんだよね」
「へえ。そうなんだ」
男2人がテンションあがってるところに、まったく似合わない声色の相槌が混ざってきた。
「は、三浦?」
「なに?お前もまざる?」
「なわけないじゃん。そいつ引き取りにきた」
そいつ、と指さされた俺は大層アホらしい顔をしていただろう。
だって、なんでいんの、お前。
「はあ?三浦だってこいつ恨んでんじゃねえの?」
「そうそう。むしろ一緒にヤっちまえばいーじゃん」
「ははっ、俺ひとりでいじめんのすきだから。じゃーね」
そう言い切ると三浦は俺の腕を掴み、歩き出した。
掴まれている腕があつい。ドクドク言ってっぞ。落ち着け心臓。
しばらくしてようやく三浦が立ち止まる。そこは最初に三浦にイタズラされたところの前だった。
しばらくお互い無言のままがつづく。
最初にしびれを切らしたのは俺だった。
「……三浦、なんで」
「知らないよ」
俺に背を向けたまま三浦は言った。
「お前が他の奴にヤられてんの見んのも面白いなーとか思って見てたけど、なんか、簡単に触らせんなとか、簡単についてくなよとか」
そこまでようやくこっちを向いた三浦は、俺の腕から手を離し、そのまま目元を撫でた。
「俺の前以外で泣きそうになんなよとか、」
その優しい手つきにとろける。無意識にすり寄ってしまう。
「俺、意外と独占欲強かったみたい」
「なにそれ、いらないって言ったくせに」
「ごめんね」
三浦が謝ったことに軽く驚く。
顔に出てしまったのだろう。三浦が困ったように笑った。
「怖かった。真田をぶっ壊しそうで。普通に監禁とかしたいし。あと、」
「………あと?」
「あんな風に言ったらどうなるかなあって」
「………はあ?」
「ちょーかわいかった。捨てられた犬みたいで。しかもあんな風に言った俺のために体捧げようとするし。でももうやめてね。俺のだから」
「っ」
ぎゅっと俺を抱き締めて、耳元でそう囁かれたらもう骨抜き。
「今度から、いれてあげるね」
「っ!」