大学が終わって、今日も霊とか相談所でモブくんが来れない日の代わりに入る簡単なバイトだ。霊幻大先生はどケチであるため、ここのバイト代で生活できるほど華の女子大生は安くない。このあとは近所のファミレスの裏方だ。華の維持には苦労が付き物である。

「おいナマエ、ファミレスのバイトまでまだ時間あるだろ」
「はい、今日は五時からなんで」
「それ片付いたらちょっとこっち来い、この霊幻大先生が勤労に効く除霊してやる」
「は?」

わけわからん。私なんも憑いてないし。たぶん。というか勤労に効くって何だ。怪しすぎる。

「また変なこと言って…何するんです?」
下げた湯呑を洗い終わって水を止めた。手を拭いて来客用のソファへ歩む。

「いいからそこ座って手ェ出せ。いつも世話になってるからな」
「お金もらってますし」
「ちょっとだろ」
「わかってんなら増やしてくださいよ」
「それは無理な相談だなァ、ほら、手」
アゴで手を出すことを催促された。なにするんだほんとに。渋々彼の前に右手を差し出すと、私よりひとまわり大きな手は親指と小指の間までしっかり包まれた。

「えっちょっと、」
「うわお前手つめてえな」
「そ、そりゃ洗い物してたので、」

大きな彼の手は、程よくサラサラしてて温かくて、その上指先はゴツゴツしてて、なんだか思わずドキドキする。というか真っ正面から男の人に手を揉まれるの恥ずかしい。
彼の顔がなんだか見れなくて、差し出してされるがままになっている自分の手を見る。こんなに男の人に手を揉まれたのは初めてだ。なんだか私がひとりでドキドキしてるのが恥ずかしい。
そんな私に気付くこともなく、彼は平然とした顔で私の手の平をむにむにとゆるく揉みほぐす。ほんとにこの人の手大きい、しかもあったかい。あとちょっとコレかなり気持ちいい。言わないけど。

「な、なんか手があったかくなってきました…」
「揉みほぐしたからな、ここは?」
「え!痛!痛いんですけど!」
親指と人差し指の間をグリグリと指の腹で押される。
「ここは肩こりや眼精疲労に効くツボだ、随分凝ってんな…これは?」
「痛ッ…あれ…?気持ちいい…」
「ほう、ここは?」
「あっ…そこも…最高です…」
何だろうこれ。霊幻先生すごい。神の手だ。ゴッドハンドだ。
「あっ、もっかいさっきのところグリグリしてください」
「…ここか?」
「あ、そこ…、すごい、気持ちいいです…」

「…今日はここまでだ。」
「ええーーもう?」
残念だなぁ、と時計を見ればそろそろバイト先に向かう時間だった。
「これ以上は追加料金とるぞ。またこの次、左手な」
「あ、やってくれるんですか!嬉しい!」
「でもまずナマエ、手の保湿が足りな過ぎる。末端冷え症だしアカギレになると痛いぞ。」
「えっ、そうなんですか?」
「これ塗ってろ、ハンドクリーム。お前手だけは綺麗なんだから、もっと大事にしろよ。」
「ええ…ありがとうございます…?」

最後の最後で気持ち良くて高ぶってたテンションはガタ落ちたけど、外に出るとまだ握られていた右手だけ温かくて

なんだか先程の霊幻先生の顔と手を思い出したらまたドキドキしだした。さっきまでは楽しみにしてたけど、これは左手までマッサージされたら、私はどうなっちゃうんだろう。
まだじわじわと彼の手の感触が残る右手だけポケットに突っ込んで、熱を逃さぬようにぎゅっと握った。





◇事務所でイチャイチャする霊幻夢
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