ジェノスくんとキスしたらディーゼルの味でもするのかな?というわたしの予想は外れた。アパートの前まで送ってもらって、お礼とおやすみを告げようとしたらスマートに唇を寄せた彼に驚いて。無味無臭の冷たくて柔らかい唇が離れ、わたしのうっかり半開きになった口から漏れた息だけ白くただよった。

「…明日、また迎えにくる」
「お、お昼頃だよね、待ってるね」

クリスマスイブの今日、明日のクリスマスを恋人と過ごすのはジェノスくんの中の常識で、正しい恋人像であるらしい。真面目だなあ。
今まで触れてもくれなかったから、なんであの鬼サイボーグは私を認めてくれたのか心底謎だったけれど、別れ際のキスで心は弾んだ。
真面目鬼サイボーグでもこういう事したいと思うんだな、そりゃ一応男の子だもんなあ、クリスマスだからかなあ、とひとりニヤニヤしてしまう。鉄仮面なところがちょっとつまらないけれど、とベッドの上で思い出しゴロゴロしていたら窓のほうからジェノスくんの声が聞こえた。
不思議に思ってカーテンを開ける。ベランダに先程別れたジェノスくんがいた。

「ナマエ!すまない、俺の勉強不足だった。恋人同士がクリスマスを過ごす時、クリスマス・イヴの夜から共に一夜を過ごし、クリスマスを迎えるらしい。」
という訳で今日は泊まらせてもらえないか?と小さい荷物を持った彼はベランダで靴を脱いだ。もう泊まる気満々じゃないか。

「ジェノスくんはその教科書みたいなクリスマスの過ごし方を誰から聞いたの?」
「先程帰宅したらサイタマ先生は今日明日はクリスマスだからナマエと一緒だと思っていたと聞き、急いで支度をして駆けつけた。」
参考がサイタマさんなのは如何なものなのだろうか、と思ったけどジェノスくんと一緒に居れるのは素直に嬉しいので、快諾する。
とりあえずお茶でも入れるね、と台所へ足を向けたわたしの腕をジェノスくんは掴んだ。
「ナマエ」
そのまま引き寄せられ、かたい彼の腕で正面から抱きしめられる。

「ジェノスくんお茶、」
「ずっと、こうしたかった」

抱きしめる力が少しだけ強まる。ジェノスくんはわたしより大きいので、耳の後ろからそんな声が聞こえた。
彼の肌に触れているところが、冷え切った金属のように冷たい。外を全速力で走ってきたのだろうか。なんだか胸がきゅうと音をたてて締め付けられる。あたためてあげたいなあと思い背中に腕をまわし抱きしめ返すと、彼は黒い目を愛おしそうに細めてわたしを見つめた。

その顔はさっきキスをしたときの鉄仮面ではなかった。すっと19歳の男の子の顔をして、今度は恥ずかしそうに唇を寄せられた。

「ナマエ、好きだ…」
「ジェ、ノスくん」

その顔とってもずるいよ。
わたしの顔を見られているのがだんだん恥ずかしくなってきて、うつむいて距離を取ろうと彼の胸に手を当てる。すると背中に回っていた腕がするりと腰を抱いて、左手はヒップに添えられた。
そのままベッドに倒れこむ。
はあ、と彼が吐いた息が妙に生暖かくて、ぞくりとする。

このまま彼のシナリオ通りのクリスマスを迎えそうだ。鬼サイボーグでもこういう事したいと思うらしい。明日のわたしはぞくぞくとするこの下半身のままちゃんと彼とデートなぞできるのだろうか。
ナマエ、と熱っぽい声で再度わたしを呼ぶジェノスくんの顔は、もう鉄仮面でも19歳の男の子でもなくて。

するりと優しく太ももを撫でた鉄の腕は、わたしの熱と彼の熱で、温かい。



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